本

『子どもと健康の世界地図』

ホンとの本

『子どもと健康の世界地図』
平野裕二訳
丸善
\1680
2008.2

 劣悪な環境に置かれた子どもたち、という題も並んでいる。「世界を受け継ぐ」というタイトルを付けられた、WHO(世界保健機関)の出版物の日本語訳だそうである。
 あらゆる項目で、世界地図が目の前に描かれている。それは色分けされている。世界のどの地域にどのような問題があるのか、一目で分かるようにできている。
 統計表もある。国別に、乳幼児死亡率をはじめ、水や衛生設備の状況、児童労働の姿やダイオキシン類の濃度が一覧できるようになっている。
 資料の出典と、用語の索引もある。本としての良心も十分に感じるものである。この本自体が、真摯な叫びから作られている。
 まともに見ていられないほどの、世界の子どもたちの現状。開く頁毎に、涙を禁じ得ない。だが、そんなセンチメンタルな心で事が済むわけではない。
 生命を支える水や大気、そして室内空気までもが、どれほど汚染されているのか。つまり、命を育むべきものが、命の敵となっているか。中国の毒入り餃子が当たり前という環境の子どもたちが、今日も数多く生きている。あるいは、死んでいく。
 未来をつくるはずの子どもたちが、未来に届かないで死んでいく。
 この地図に、一応日本は描いてある。だが、どの問題にも、日本は殆ど無関係のような位置に描かれている。日本の子どもたちは、この本に取り上げられた「劣悪」性とは、無縁と言ってもよいくらいの、恵まれた環境にいるのである。大気汚染と有害物質の懸念が少しあるくらいだが、それも世界の中では最も恵まれた安全であると言えるのだ。
 その日本は、海外の劣悪な子どもたちの環境に、無縁なのであろうか。この本にはそこまでは記されていないにせよ、経済を盾にもつ日本が、世界の子どもたちを苦しめている立場にある面は、当然ないなどとは言えないはずである。他方で援助もなしているであろうけれども、劣悪な環境を作り出す原因となっているというところへ向ける想像力が、日本人に必要な能力ではないか、という気がしてきた。
 この本は、基本的に数字の本である。数字は、人格をもっているわけではない。だが、その数字だけからでも、背後にある子どもたちの苦しみと健気さを想像してみなければならない、と思うのである。




Takapan
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