本

『本当に怖いキラーストレス』

ホンとの本

『本当に怖いキラーストレス』
茅野分
PHP新書1143
\860+
2018.6.

 キラーストレスという定義は、本書の中で、人を死に至らしめる心因としている。それは、我慢することにより致死へと近づき、本人の意志だけでは対処できなくなってしまう。実際、ストレスという名で呼ばれるものについては、緊張という、行動の中で必要でなければならないものなのであり、何でもストレスという名で悪のレッテルを貼ることは慎むべきだと思うが、本書ではその辺りのことには関心がないようで、とにかく死に至るストレスがあるという前提からスタートしている。
 著者は現場の医師である。医学者であるとか大学教授であるとかいう研究職イメージとは違い、患者の病状と直に相対し、治療にあたってきた日々の中で、様々な実例を経験してきた人である。もちろん患者のプライバシーを侵すことはできないが、実際の例を指し示すこともあり、単なる机上の論理だけではないことが、説得力のある対処の積み重ねの中に分かるようになってくる。
 そのキラーストレスとはどういうメカニズムで危険なのだろうか。脳内電気回路の異常から自律神経の乱れ、そしてホルモンが作用してキラーストレスになるという説明がしばらく続く。素人には難しい点があるが、ざっと斜め読みでも差し支えあるまい。但し、精神科を訪れる人々の実例は、読者にも思い当たるケースが思い起こされる可能性があり、自分でも気づかなかった自分の中のストレスに気づかされることがあるかもしれないので、慌てずに噛みしめて読んでいきたいものである。
 このストレスには、ハラスメントによるものも含まれる。モラハラかパワハラとか言われるものが、企業生活の中で積もり積もってきてはいないだろうか、自己診断が望ましい。そして、気づかされるものがあるだろうかと考えてみる。やはり我慢という範疇の出来事の中で、確実にキラーストレスは成熟していくもののようである。
 著者は提言する。三つ、たった三つのことでいい。標語のように、いつでもそれが口をついて出てくるくらいに、身近な警告として覚えておきたい。
 頑張らない
 あきらめる
 空気を読まない
 たとえばこの「頑張らない」については、勝負にこだわる無意識の精神が、ストレスを悪化させるなどといった点にも注意を促している。その際、日本人の自己肯定感の少なさが、嫉妬を呼ぶメカニズムなどの解説も入り、これら三つの重要性が丁寧に説かれる。そこには、SNSの中で陥りがちな、ストレス悪化の因にも注意を向ける。そこには、人間心理というものの理解も含まれているように見え、私たちの精神生活への反省を問うようなところもあった。
 最後に、キラーストレスに殺されないために気をつけたい生活での習慣が提言される。睡眠・食事・運動・飲酒・喫煙にまつわる注意である。生活上の具体的な事例で説明されるので、非常に分かりやすい。そして本当に最後の部分で、うつ病の怖さを踏まえて、うつを早く知る方法やそれを解消するかもしれない方向性が挙げられて本書は終わる。
 ここに挙げられたことのほかにも、人格障害などの知識があれば、なかなか読みやすい内容である。できるならば「いいひと」になることを中断して、穏やかに圧力から解放されるべく気持ちを相応しい方向に向けて歩み始めるとよいことだろう。読んだだけで自力で治療ができるものではないから、思い当たったら基本的に信頼できる医療機関にかかり、解決へのゆっくりとした時の流れに沿って生活していくのがよいだろう。
 特に前半には、一目で分かると言っていいほどの図や表が掲載され、それぞれの対処についてのヒントがふんだんに載せられている。この辺りの解説は、量としてはごく少ないのであるが、人体と心について知りたいことが、どう調べたら分かるかという点でも役に立つものであるように思われる。
 自分だけは大丈夫。そう思うところに罠が備えられる。「頑張らない・あきらめる・空気を読まない」の三つを実行して社会生活を送ることは困難であるかもしれないが、いつも自分を守る言葉として胸に刻んでおくとよいかもしれない。私たちの心を防衛する盾となるかもしれないであろうから。




Takapan
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