本

『科学のすすめ』

ホンとの本

『科学のすすめ』
岩波書店編集部編
岩波ジュニア新書301
\700+
1998.6.

 中古本でしか入手できないかもしれないが、ネット関係では1円と配送料で買えるようだ。ジュニア新書なので、中高生がターゲットだが、内容的に中学生はややきついかもしれない。それは不可能という意味ではないが、高校の理科でそこそこ聞いたことがある程度の内容を踏まえた解説や図版が並んでいることがあるため、イメージが中学生には掴みにくいのではないかと思われるという意味である。
 どちらにしても、これは科学に興味をもつ生徒にとり、目を輝かせるような内容であると言える。数学から科学の各分野、最後には脳科学に至るまで、専門家が20頁余りの範囲で、その学問の魅力を語るというものである。参考文献も挙げられている場合があり、生徒が世界を広げるのにも役立つ。が、印象として、やはり中学生にはきつい。高校生でも、科学にかなり親しんだ人にしか立ち向かえないような文献が多い。専門家側としては、頑張って若い人に読んでほしい、と思ってこれらを挙げ、また原稿を書いているのはよく伝わってくるのだが、如何せんレベルが高い。
 かといって、これを大学生に相応しい、と言うのはどうだろうか。大学というからには、すでに自分の研究分野を決めているというのが基本である。細かな専攻はともかくとして、物理か生物かの道は分かれていることだろう。中には、大学入学時にはすぐには決められていない大学もあろうが、さて、入学後にこの本に出合って、刺激を受けてその道を目指す、という場合がどのくらいあるものなのかは、分からない。
 そういうわけで、自分が関心を持ち取り組んでいこうとする分野を決めるための指針として、この本はどのように実用的であるのか、それは分からないとしか言えないような気がする。
 そういう目的である、とこの本が明示しているわけではなく、裏書きには「体験的自然科学入門」とあるだけである。科学の面白さを紹介しているのは分かるし、この本の目的がこれだ、と限定することが得策でないものだろうということも理解できるのだが、手に取る中高生のためには、何かしらアピールがあってもよいのではなかったか。この本は具体的に、どのような生徒に、どんな光を投げかけるものであるのか、もちろん大人の視線としての私のような者からは、こういうことかなというふうに見ることはできるのだが、とにかく何も知らない中高生の立場からすれば、これはどこに誘っているのか、何を目指しているのか、分かりにくい。
 そういう打算の入ったような目的ではなく、純粋に、科学そのものに目を向ければよいのだ、という弁明もあるかもしれない。いや、確かにそうだろう。タイトルは「科学のすすめ」である。「勧め」であるからには、何のために勧めるというのではなく、ただ科学っていいぞ、というだけの問題であってよいし、その後、科学者を目指すなり、科学への興味を持ちつつ政治家を目指すなり、小説の中に科学を描くなり、受け手が自由に活用すればよいのである。
 ただ科学に興味がもてるように、という懐の広さを感じはするが、それにしては内容的に敷居が高いようにも見える。純粋科学という意味で最初に掲げられたであろう数学入門は、まずバビロニアから入る。中学生にこれは不明である。周知のように挙げられた「幾何」の語もおそらく知らない。プラトンの著作については高校生でも分かるまい。無限のパラドクスを集合論的に説明されても、アキレスと亀の論理も、無限級数で説明されて中学生がどう理解したらよいのだろうか。非ユークリッド幾何学の歴史は、確かに数学の世界を伝えるためによい材料であるのだろうが、さて、ジュニア新書の対象読者がどのように受け止めるものであろうか。
 次の物理学になると、高校数学、しかも上級生でないともう見ても何の世界なのか分からないという説明が延々と続けられている。光の干渉や惑星運動とケプラーの法則などが説かれても、読者はどう読めばよいのであろうか。
 実は、この後、化学から生物、大脳生理学の話題になると、こうした数式は消え、内容的にも理解しやすく、読みやすくなっていくのである。話題的に、この20世紀最後の時期の出版は、当時最先端だったものが今や古びていることは否めないが、書かれてあることがその後大きく変化したり覆されたりしているのではないとすれば、この後半の記述は、もしかすると中学生にも読めて感じ取れるものになっているのではないかと思われるのだ。
 つまり、これは掲載順を間違っていると私は思う。学の秩序としてはここにある順には意味があるが、中高生が手に取り開いたとき、最初ですっかりめげてしまうのではないかと思うのだ。単純に、最後から逆に掲載していたほうが、中高生が読む気になれたのではないかと考えている。
 人に、とくに若い世代に「勧める」という点に、編集部の配慮が欲しかったという点で残念に思われてならない。




Takapan
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