本

『歴史でわかる科学入門』

ホンとの本

『歴史でわかる科学入門』
ウィリアム・F・バイナム
藤井美佐子訳
太田出版
\1890
2013.12.

 哲学の歴史を考えるにあたり、科学の歴史をも知る必要があるという判断で、図書館で見つけて借りることになった。都合よく新刊の中に見出されたのだ。
 一人の科学者について、短いコラムであるかのように扱われ、一人あたり10頁以内でまとめられている。このくらいのスペースがあれば、結構細かなエピソードも扱える。しかも、あまりにも有名なことについてだらだらと話すような著者ではない。「おっ」と思うようなところをもたらしてくれるというのは、その道にいくらかでも慣れた者にとっては、親切な配慮である。
 哲学の分野からも、当然科学という領域は検討されてしかるべきである。アリストテレスにまで遡らなくても、デカルトやパスカルは、今でいう科学者に違いなかった。総合的に学問を修める傾向のある時代のことである。これが後には、専門分野に分かれそこだけを知るという営みに科学が移っていくのであるが、さしあたり知識人としては、多くの分野にまたがって活躍し、多方面の発見をしていることになる。それが当時のあり方であった。
 しかし、えてしてそのデカルトやパスカルなどに代表されるように、哲学が扱う科学史ということになると、しばしば物理学的分野あるいは天文学的分野に制限されがちではなかっただろうか。世界はいかにあるか、という世界認識の一端を哲学が担っている以上、そのような科学的傾きも故なきことではない。
 そこへいくとこの本は、生物学や医学についての言及が相対的に多い。つまり、著者は専門的に指摘するならば、医学史の領域に詳しいということなのだ。だから、哲学史の中でよく言及されのとは違う、新鮮な知的好奇心を満たすリストが、この本の目次を賑わしている。あるいは、知らない名もそこにはあるかもしれない。しかし、特に医学的な領域は、案外哲学専門のグループが関心を向けることはあまりない。私はそれを残念だと思うが、たしかに大学などでなすべきことがたくさんある。
 科学者のエピソードについても、もちろん有名なところは多数集められているので、あまり一般的に知られていないような事柄も、時に含むようになっている。その項目ばかり読んでも楽しいだろうと思う。
 決して、ベタな叙述ではない。あまり知られていないような話も伝えられている。だからただ読んでいったとしても、読み飽きない。これだけの科学者についてこれほどの簡潔さを以てまとめるというのは、かなりの驚きである。資料や知識の上でも敬服するが、その文章もうまいと言うしかない。せっかくこのように私たちに本があてがわれている。精一杯味わいたいものである。
 ただ、私自身としては、思想的背景の中で捉えようとしてこの本を手に取ったのであったが、そうした点からは記述されているわけでなかった。でもそのことでこの本の価値が落ちるわけでは断じてない。その科学者の業績や考え方など、地に足の着いた形での窓口の役割を、十二分に果たしてくれたのである。私の知らないことを教えてくれることについては、賞賛して事足りるものではないと考えている。ここから何をまとめ、どう統一見解をもつようになるのか、それは読者一人ひとりの楽しみでもあり、責任なのである。




Takapan
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