本

『爬虫・両生類飼育ガイド カエル』

ホンとの本

『爬虫・両生類飼育ガイド カエル』
松園純
川添宣広写真
誠文堂新光社
\2625
2008.9

 飼育と繁殖と種類別のポイント、そして病気などが記されている。
 つまりは、これは、カエルの飼い方の本である。
 カラー写真は最初のほうだけだが、そこに出ているカエルの美しい色の魅力は十分伝わってくる。
 その「はじめに」には「カエルを尊敬する」と書かれてある。著者が一番伝えたいことであり、すべての根底に置いておかなければならない精神であり、この本の全編を貫いている原理である。たんにハウツー的に飼い方が書いてあるのではなく、そのカエルを尊敬し、愛し、大切にしていく著者の姿勢から、カエルをいかに尊重するかどうかを徹底追究した、哲学書であるようにすら思えてくる。
 その姿勢たるや、見事である。カエルは、その餌からしても、一般のペットと比べて、尋常ならぬものを要求している。生きたコオロギを、一日数十匹必要とするというのだ。カエルが小さなうちは、小さなコオロギを、カエルが成長するとそれに応じて大きなコオロギを、何十匹と要するのだ。しかも、カエルにとりコオロギをハントする能力に劣っていたら、コオロギの足を切断して動きを鈍くして与えるなどという。また、餌にされることを待っている間、このコオロギにも餌を与えなければならない。空腹のコオロギをカエルに与えても栄養ある餌とはならない、というのである。しかもそのコオロギに、一般の野菜を与えると、農薬を落としきれないのでだめだなどという。
 カエルをとことん愛していなければ、餌ひとつできることではない。
 ビバリウムという、カエルの生きる環境にできるかぎり近づけたものを作り上げておかなければならない。土も、水も、植物もどのようなものがよいのか。どのようにそれらを清掃するのか。また、カエルの種類毎にそれらはどう違うのか。
 そもそもここからスタートしなければ、カエルを飼うなどと言えないというのだ。その具体的な様を、懇切丁寧に教えてくれる。餌にしても、個体の差などもあるので、著者の実体験的なデータが紹介されてあるわけだが、こういうデータはほかのどの本でも手に入ることはあるまいと思われる。それくらい、この著者はカエルを愛し、カエルのことを伝道しようとしているようにしか見えないのだ。
 家で飼うならば、カエルに冬眠をさせるべきではない、と著者は言う。詳述はしない。だが聞けば聞くほど、なるほどそうだと納得するしかないことが書かれてある。
 多くのカエルの写真を提供し、その種類毎に、ビバリウムの実例の違いなどを含め、どのような環境を作ればよいのか、とにかく自分の恋人のことを延々とのろけるかのように、いくらでも語り続ける著者。そういう著者のことも、尊敬せざるをえない。
 外来種を外に放ってはならないこと、その理由など、カエルを愛するがゆえに、カエルのために、そして自然のためにならないことを、徹底的に訴える。大切なことは、二度三度と訴える。
 そして、2007年に報道されて話題になった、カエルツボカビ症。それに限らず、飼っているカエルの病気についても、深く広く解説が付けられている。
 たんに、綺麗な色のカエルを見て「カワイイ」などと言うのとは、訳が違う。生き物を飼うとはどういうことなのか、人間たちに思い切り反省を促す一冊でもある。




Takapan
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