本

『トコトンやさしいカビの本』

ホンとの本

『トコトンやさしいカビの本』
佐々木正実監修
日刊工業新聞社
\1470
2006.12

 ためになった。カビについて、通り一遍のことは聞き知っているような気分でいたが、間違っていた。
 この種類の読みやすい本の形式は決まってきたような観があるが、見開き初めの1頁は文章による説明、次の1頁は、イラストまたはパワーポイント張りの視覚的な解説またはまとめ。科学的な説明においても、その方法は有効である。テンポ良く理解できるし、忙しい中、1項目毎に区切って読み進むことができる。
 それはそうと、この「カビ」。
 手を洗いすぎると、却って菌が増えていくという仕組みが警告されていた。清潔志向などというが、しょせん無菌になれるはずもないし、また、無菌にもしもなったとしたら、そのことが逆に生命を脅かすことになるという。私たちは、雑菌だらけの中で、無数の微生物と「共に生きている」のであった。これは、聖書的な視点そのものであるのかもしれない。
 単に、醸造や発酵をもたらすから良い面がある、などというレベルの問題ではない。私たちは、そもそも菌たちの中で、菌たちと共に生きているのだ。そのことを忘れて、ちょっとした見かけからくる感覚だけで、清潔にしなければ、などという自分本位の目的を優先していくと、とんだ間違いの路線を走っていくことになる。カビとりスプレーがいかに危険なものであるか、反省させられることばかりであった。
 日本は、欧米と比較して、高温多湿というカビに好都合な環境の中にある。だからこそ、醸造に秀でてきた歴史があり、そちらにはない食文化を生み出してきた。だがそれは食文化に限らなかった。住環境も、木造の建築が、いかにそのカビの問題をクリアしてきたかということを、見かけだけのことで、私たちは忘れてしまい、排除してしまったのだ。
 一読の価値がある。いや、読んだことによって、世界観すら変貌してしまうかもしれないような、たいへんな本である。




Takapan
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