本

『色の知識』

ホンとの本

『色の知識』
城一夫
青幻舎
\2415
2010.6.

 古今東西、というと大げさかもしれない。基本的には西洋の範疇である。副題に「名画の色・歴史の色・国の色」とある。たとえばある国で重視されている、あるいはその国を象徴するような色、独特の色、そういったものをいくつか代表させ、見開きの中に集めているということである。
 カラー印刷なんと常識だし、今さら何を、という方もいらっしゃるかもしれないが、印刷で色を出すというのは、実は相当に困難なことである。昨今、コンピュータ画面の色をそのまま印刷するということが当たり前のように考えられているが、光の色彩とインクの色彩とは原理的に異なる。これを、いわば通訳のように変換して印刷に落としているわけであり、すべてが完全に行われているわけではないのが実情である。従って、おおまかな印象として別の色になっているわけではないが、例えば絵画展に行き、実物と目録との色合いが微妙に違って感じられることは、どなたも経験していることだろうと思う。
 色の見本や色の提示は、そのように原理的に困難な宿命を背負っている。こうした本は難しい。ただ、近年はこの色彩を数値化して登録するという方法がある。この本のように、色光においてはRGB値を、印刷の色についてはCMYK値を示すことで、必要な人にはそれを再現できるように配慮がしてあるというのは、近代的である。
 この本は、様々な角度から色の歴史と実際を辿る。美術やデザイン様式別に紹介することから始まり、西洋の画家たちの用いた色、それから画家や建築の名を冠した色の紹介を加え、各国その国の象徴色と展開していく。様々な分け方があって、面白い。たとえば日本は、基本的な赤・青・白・黒の4色に加えて、紫と橙が挙げられているが、名称としては、ジャパン・レッド、ジャパン・ブルー、ホワイト、ジャパン・ブラック、ジャパン・ヴァイオレット、ミカド・オレンジ、とされている。青などは、世界各国で微妙に違いがあることが特によく分かる。白にしても、若干違う白があったりもする。黒も然り。
 思えば、その土地において画材として用いられるものによって、基本色は当然違ってくるはずである。土の色もそうである。しかしまた、その国で見られる空の色を思うと、同じ青でも何を以て標準とするか、変わってくるであろうことも想像できる。海の色かもしれない。産出される動植物の色合いにもよるだろう。それが、文化を決定していく。
 歴史的なものは、出土した遺跡や物品の中から推測する。従って、果たして挙げられた通りの色合いであったかどうかは、当然疑問が残る。だがそれでもいい。私たちにできる範囲で捉えていけばよいのだ。
 こうした試みは、画期的なことのように思えたが、実は世界各国ですでにいろいろなされていることであるらしい。著者も、様々な文献の中から選びつつまとめているところが多く、その上で、著者独自の研究や推測から編集してまとめたものもあるという。時には、著者自身が色の名前を決定しているときもあるという。しかし、それほどの自信があり、研究の背景があるということも事実なのであろう。それぞれの色に一定の長さの解説があり、見ていて読んでいて、厭きることがない。
 また、巻末には色彩についての歴史が概観され、またそれとは別に年表形式で色についての歴史が整理されている。大した資料である。最新の情報としては、2010年、映画アバターが挙げられ、3D元年だと表示されている。
 画家についての見聞も深まるが、美術史はもちろん、各国の文化の理解にも、色という角度から、実に楽しい知識を得ることができる。一読をお勧めしたい。




Takapan
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