本

『命のノート』

ホンとの本

『命のノート』
細谷亮太
講談社
\1365
2006.7

 聖路加国際病院副院長であり、小児科部長である著者は、医療の現場の姿を、これまでも何度か書において世の中に伝えてきた。今回、それを、子どもの読み物として、子どもに直接訴えるメッセージを本にしたという。《ぼくたち、わたしたちの「命」につての12のお話》との言葉が表紙に添えられている。
 それは、12章に分かれているという意味であって、12のストーリーが並べられている、という意味ではない。実話が紹介される章もあれば、命についてのエッセイとして成立している章もある。そしてそれらが、一つの糸につながって流れていくメッセージとなっている。
 漢字には、的確にふりがなが振られており、たしかに子どもにも読みやすい。いや、語彙や語り口そのものも、実に相応しいものとなっている。それは、医療の現場でも、子どもに対するぎりぎり愛情を貫いている著者の内面からわき出すものであるからだろう。
 マミちゃん、さとしくんのエピソードの後、「命の重さ」によって、命ということについて体系的に語られる。続いて、赤ちゃんの反射など、親にならなければ知り得ないような知識が、子どもたちに真正面から紹介される。さらに、個人的体験やまた別の小児がんのエピソード、スヌーピーの物語についてなどが続く。
 必ずしも死だけが語られるのではなくて、生、すなわち命の誕生も共に語られることにより、本のテーマが美しく響いていくことになる。
 六歳で洗礼を受けたマイちゃんと、病院の牧師が訪問するR君の話を除いては、ことさらにキリスト教が現れることはないのだが、もちろんそうした精神に全編が貫かれていると言ってよい。最後のエピソードの末尾は、お寺の法要の風景の中で、次のように締めくくられている。
「人間の命というものは、人間の力をこえたところでコントロールされていて、ぼくたちは生まれてきて、それを一時(いっとき)あずかられてもらっている。だからこそ、大事に大事にあつかわなければならないんだ」
 子どもを教育する立場にある人は、ぜひお読み戴きたいと願う本である。




Takapan
ホンとの本にもどります たかぱんワイドのトップページにもどります






 
inserted by FC2 system