本

『祈りは人を育てる』

ホンとの本

『祈りは人を育てる』
塩野和夫
花書院
\1500+
2016.2.

 西南学院が、2016年、創立百年を迎えた。そのことで在学生も含め、これまでの歴史を担った人、関係者たちの間でひじょうに盛り上がっていた。この本もそれを記念するような出版であり、サブタイトルとして「西南学院につながる私たち」とある。そのキリスト教精神を中核に置いた上で、現在の大学教授がまとめた本となっている。
 西南学院の歴史が綴られる。その意味では、これは卒業生や関係者にとり、感慨深い本であるだろう。歴史的資料を集め、西南学院が多くの信仰者の祈りによって今日まで歩んできたということがまとめられている。それも、ほどよい分量で、見直すにしても読んでみるにしても適切な具合になっていて、手元に置いておくのに好都合なものとなっている。そういうメリットを理解して手に取ってみるとよいだろうと思う。
 部外者にとり、分かりにくいところが多々あるし、その人は誰だろうと思うこともある。もしかすると、在校生にとっても知らないということが多いのかもしれない。しかし、こうした記録は重要である。仲間内で知っているという安心感が漂うと、記録性を失わせる。すると、後の世代が困るばかりか、現在覚えているという人、常識としている世代の中でも、様々な思い違いや理解の行きとどかないところがあり、たぶんこうだったのではないか、というような想像で執筆がなされていく。たとえばインターネットの場でも、誤った情報が次々とコピーされてはびこるということは現に起こっている。あるソースを見つけると、それが真実だと判断して、それをそのまま掲載していく。そしてそれを見た者がまた、というように拡散していく。嘘や誤りが、こうしてどんどん拡大し、へたをすると真実の記事よりも検索数が多くなる、ということもありうるのだ。
 一定の状況で記録すれば、真実はそうでないと知る人がそれに対してレスポンスしてくる。こうして、誤りが修正される可能性が高まる。それは著者にとり心外なことかもしれないが、正しい記録がなされていくためには必需の過程となるだろう。
 関東や関西の方々からすると、片田舎のキリスト教系学院という程度の認識でいるかもしれないが、バプテスト連盟という、日本のキリスト教組織の中でも巨大さでは有数のグループの本拠地がこの西南学院である。また、女子大などを含め、関連の学校も多く、日本のオピニオンの領域でも決して小さくはない地位を占めている。信仰の上でも、多様性があるものの、必ずしも一方向に走りすぎているわけではない。キリスト教世界においても、この学院のもつ意味は大きいものと思われる。
 福岡の地で輝く十字架のひとつがここにある。その一つの金字塔とでもいうべき出版である。ある程度個人名義により成り立つ書ではあるが、これを通じて、記念すべき、価値のあるものとして遺して戴きたいと願う。




Takapan
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