本

『今、ここに生きる預言者』

ホンとの本

『今、ここに生きる預言者』
高橋秀典
いのちのことば社
\2100
2012.8.

 これはきっと、お買い得である。福音のメッセージが、綿密な知識と聖書解釈によって支えられており、慰められる。私はこういうメッセージを送りたいと願うし、聞きたいと思う。
 題材は「預言者」とある通りに、旧約聖書である。そして、イザヤ・エレミヤ・エゼキエル・ダニエルという四人の預言者がここでは取り上げられている。著者は自分の教会で、他の書からも講解説教を続けているということだが、この本ではこれらいわゆる大預言者に的を絞ってまとめている。それから、ヨハネの黙示録も最後に載せている。聖書がここを目指しているからでもあり、また、かの預言者たちの書もまた、ここに繋がっているからである。
 ともあれ、それぞれが決して長くなく読み進めやすい。コンパクトにまとめられていて、それでいて、決して簡略化されているわけでもなく、きっちり釈義が与えられている。よくぞここまでこの分量でまとめられるものだと驚く。出版社も大いにこれを宣伝しているわけではないようだが、これはもっと宣伝してよい。旧約聖書と格闘する著者が、そこから受けた恵みを万人に配分しているかのような本なのである。
 しかし旧約だから、とお思いの方へ。それがまたびっくりするほど、すべてがイエス・キリストと結びつけられているのだ。これら旧約の預言が、キリストを預言しているというのは、新約の世界からすれば常識と言えることなのだが、この本はまさにそれを地でいっている。そこかしこにキリストが現れ、どう関係しているかが常に意識されて綴られている。読み終わるとき、新約聖書の意味が分かった、と思えるような書き方がなされているのである。
 しかし、このようなことを綴っても、この本の魅力はちっとも語れていないような気がする。私は言いようもない感動をこの本から味わった。厳しさもある。福音が、然りは然り、否は否とするところを明確に線引きしている。容赦はない。聖書がそう言っているのだ、ということについては、どんな権威を与えられた者でも人間である以上、割引きすらできない。しかし、ともすれば旧約のうちに感じられる神のそのような強いイメージがこの本のすべてなのではない。温かいのだ。優しいのだ。まさにイエスが、弱者として歩んだように、そして慈しみの眼差しで以て罪人を見つめている様子が、この本の文字から感じられたのである。
 福音とはこういうことを言うのだな、と、とろけるような味わいを与えられ続けた。そして励まされ、こうした福音を語っていく必要があるのだというふうに教えられた。本の帯に、「今を生きるキリスト者へ、励ましと希望のメッセージ」とあるのは、決して調子の良い宣伝文句なのではなかった。まさにその通りなのであった。
 著者は、旧約聖書に詳しい。アメリカやドイツで暮らした経験もあり、世界的な視野ももっている。かつての大国世界の狭間で政治的にも揺れた二つのイスラエルの状況は、心理的にもよく解する視点を有している。ビジネスパーソンとしての優れた経歴もそうした視野のために活かされていることは間違いない。タイトルだけ聞くと、ちょっと引いてしまいそうな方もいらっしゃるとは思うが、決して神学論議などをしているものではない。霊的にも読者を力づけ、神に従う者として扱ってくれる。思いつきや思い込みの信仰論も飛び交う世の中にあって、聖書に基づく確かな信仰論がここにある。内容の質や量に比べても、格安である。これは買って読んで、全く損はないだろう。私も、ちゃんと買って読んだ。黄色いマーカーをストイックになるべく安易に引かないようにと決意しながら読み始めたが、私の欲望はその決意をいとも簡単に打ち破ってしまうのだった。




Takapan
ホンとの本にもどります たかぱんワイドのトップページにもどります






 
inserted by FC2 system