本

『生きる命』

ホンとの本

『生きる命』
丸山健二文・前川貴行写真
ポプラ社
\1680
2008.6

 文にも強いメッセージがある。それは、「生きている命」と「生きる命」を対比させた最初のところで、もう見えている。ただなんとなく生きている命と、自らの意志を以て生きる命とを、対比させようとしているのである。その対比と、その生きる命のもつダイナミズムを伝えていく文章が、いくぶんアフォリズムのように刻まれていく。時にどきりとすることがある。
 相応しい喩えであるのかどうか分からないが、ハイデガーの非本来性と本来性との対比を見るかのようであった。
 だがその言葉は、写真に添えられたものであった。写真というのが、見る者に生唾を呑ませるほどの迫力と繊細さとを持ち合わせた作品である。写真を見ているだけで、しばらくうっとりしそうである。
 その写真を堪能した直後に、短く語られたその言葉を読むと、ぐっとくる。写真の解説というわけではないが、写真から知られる「生きる」という概念の説明が施されているかのように見えるのだ。
 美しい写真だ。樹木の、あるいは動物の、よくぞこんな瞬間が撮れたものだと感動する写真ばかりである。この写真だけを味わうことでも、本を開いた価値があったと思うことだろうが、その言葉と合わせて初めて、カメラマンの言いたかったこともまた明らかにされ伝わっていく。
 互いに理解ある、写真家と作家とのなせるわざ。だからこそ、絶妙の言葉が付け加えられる。そんなに簡単に言い切っていいのかな、と思うふしもあるけれども、この動物あるいは植物たちの写真の中からあふれてくる「命」の前では、読者は何も言うことがなくなる。その美しさに惹かれていくのであれば、それはそれだけでよいような気もする。
 とにかく、美しい写真である。絵本のように、そればかり見て楽しんでも、何の問題もないだろうに、とは感じる。




Takapan
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