本

『ひまわり』

ホンとの本

『ひまわり』
大城貞俊・山田耕大脚本
ひろはたえりこ文
汐文社
\1470
2012.11.

 ゴッホの絵や、ソフィア・ローレンの映画を思い出される方もあるだろう。NHKの朝ドラのほうが親しめる方もあるか。
 様々な象徴に用いられる、ひまわり。しかしこの新たな本は、沖縄でのある事件の実話を描いている。本の表紙にあるシンボル的なフレーズである「沖縄は忘れない、あの日の空を」という言葉だけでは、いったい沖縄のどの事件のことを指しているのか、分からない。それほどに、沖縄には悲しい出来事がたくさんある。沖縄戦については、私は一時かなり調べたことがある。沖縄がどういう場所として置かれていたか、それをこの本の中では、「説がある」という程度にやわらげてはいるが、実際そうだと言っても何も問題がないほどの、捨てられ方をした地域である。
 では、この本は、その中の何であるのか。
 それに先立ち、本のことに触れておきたい。この本は、映画のための本である。2013年、全国各地で、小さなホールや大学などの場所を用いて、いわばマイナーな形で上映されている。だが、その反響は大きい。実のところ、この映画の中でも、草の根の活動がコンサートを開き、手をつなぎあおうというクライマックスを迎えていくのだが、まさにそれを上映のスタイルで実現しているかのようである。
 この本はまた、子どもが読める本である。小学生でも十分読める。文字の大きさや行間、ふりがななどもそうだが、使われている語彙も、極力小学生で対応できるように考えられている。そして、だからこそ、大人も抵抗なく読める。大人にもぜひ読んで戴きたいと願うほかない本である。読みやすいのだから、後は意志だけである。時間もさほどかからない。
 私も、電車の中で読む習慣があるから、大変だった。一日の電車の中で読めたのだが、涙がこぼれて仕方がなかった。これが、外で読むときのネックである。それも、最初はどちらかというと微笑ましい描写で物語は進む中で、突如事件が起こる。
 物語の紹介には気を遣うが、これはもう紹介してもよいだろう。「石川・宮森小ジェット機墜落事件」である。小学校に、米軍ジェット機が墜落した。エンジントラブルを抱える機体を認識した上で爆弾を積載しつつ飛行し、その異状の中でパイロットは脱出、無人のジェット機が民家と小学校に突っ込んだというものだった。1959年6月30日午前10時40分頃のことである。
 事故に遭いながら命をとりとめ、だが大切な仲間と恋する子を失った男の目を通して、また、その孫の男の子が沖縄での問題を大学で調べていくうちにその事故のことを知り、社会に訴えていこうといく有様を描く。また、その男の子が心寄せる女子学生の葛藤や友情なども織り込んで、厚みのある描かれ方となっている。
 この女子学生は、2013年にNHKの朝ドラでブレイクした、能年玲奈が好演しているというが、そのことも話題性を盛り上げているかもしれない。けれども、この映画に、多くの人の思いがこもっていることは間違いない。まさに命への思いが寄せられている。その心は、本の中にも確実に伝わるように描かれている。読書感想文のための本としても適しているはずだ。
 映画にしろ、本にしろ、こうした命への思いを、私たちは、もっと全身で受け止めるべきだ。困難を見ないふりをして、うわべの娯楽に逃げているような在り方が、あまりに一般的になりすぎている。人生は重いものだ。かけがえのないものだ。逃げないで、見つめていきたい。つい二年前に、東日本大震災で、その命のことを、日本人は思い知ったのではなかったか。明らかに、それはもう忘却されている。水に流されている。人々の命を奪い、財産をさらい、未来をずたずたに消してしまったのは、津波だけではない。それを水に流した、私たちの心がそうしたのではないのか。
 最後に、もうひとつの「ひまわり」に触れる。ひまわりは、阪神淡路大震災の復興のシンボルでもある。関心を抱かれる方は、「はるかのひまわり」を探して戴くと幸いである。




Takapan
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