本

『被ばくカットマニュアル』

ホンとの本

『被ばくカットマニュアル』
安斎育郎編著・福島プロジェクト協力
かもがわ出版
\1200+
2016.11.

 まやかしに対して科学の立場から暴くなどの企画でも有名な著者だが、専門は放射線防護学。そして、平和学。チェルノブイリ原子力発電所事故よりも以前から、原発批判を通してきた強者である。それも、もちろん科学的な調査と研究に基づくものであるから、多くの人の指針になる。
 本書は、子どものためという立場で作られている。中高生ならば問題なく読めるし、小学生でも上級生ならばかなり読めるだろうと思う。もちろん、大人も読むためのものであり、視点は子どもたちに向けられている。これから生きる子どもたちのために、放射線という問題をどのように考えていけばよいのか、そこに徹底して話を進めている。
 だから、要点は、被ばくを減らすための4つの方法である。要するにこれさえ知って生活をすれば、まずは安全性を高めることができる、ということである。
 それは、「放射性物質を取り除く」「放射性物質と人体とのあいだに遮蔽物を置く」「放射性物質に近づかない=汚染から遠ざかる」「放射線レベルが高い場所にいる時間を短くする」である。より簡略化するならば、除染・遮蔽・距離・時間の4つである。
 イラストや資料をふんだんに用いて、ほんとうに分かりやすく説明してある。「マニュアル」の名に相応しい、すぐれた本となっていると思う。
 そもそも放射能とは何か。放射線とどのように違うのか。ここから分からずに、賛成だの反対だの言っている人も少なからずいることだろう。シーベルトとベクレルという、ニュースでは流れるものも、いったいどのような違いがあり、基準はどこにあるのか、果たして知られているのだろうか。そしてさらに専門的に言うならば、実際生活していくにあたり、どんなことが危険であり、何については危険性が薄いのか、これは不安からくる噂が飛び交い、いわゆるデマとして流れることも多かろうし、そのデマをネタに相手を理論でねじ伏せようとする輩も出てくる。もう思い込んでしまっている人もいるし、ちょっと聞きかじったことで誤った結論に至るということもある。もちろん、人の心という問題が大きいと私は考えるが、その心ですら、一定のデータにより安心が与えられるというのであれば、科学者の報告は大きな影響をもつ。
 基本的な説明が多い。そして、よくある質問とそれに対するコンパクトな答えがたくさん集められている。必要十分な内容であると感心する。さすが、その道のプロと、現場で調査している人々との合作である。
 内容的には、希望のもてる回答となっている。将来農業ができるか。それは除染さえ終わればできるという。被ばくの実際はどうかというと、現実に数値は下がって来ているという。かつてのチェルノブイリ原子力発電所事故の場合よりはずいぶん軽くて済んでいるのだ。このあたりの報告は、いま福島を追われている人々が、帰ることができる希望、そこでの生活に、風評さえなければ回復が可能であるという希望を抱くことができるものとなっているように見える。妙な噂や思い込みで、怯える必要がないという科学的な説明である。もちろん、ホットスポットに近づくことは避けなければならないなど、必要な知識もちゃんと告げてあるから、信用度は高い。
 しかしまた、だからと言って、放射能の被害など気のせいに過ぎないからどんどん原発は再開すべきだ、という結論を導くことについて、著者はもちろん賛同はしない。原発に依存することはあまりにもリスクが大きすぎることを知っているからだ。しかし、結局はこの科学的データを知ることで、読者や国民がそれぞれこの問題に向き合い、一人ひとりが真摯に考えること、それが一番大切なことである、としている。すばらしい姿勢であると思う。人間が管理する以上、人間の知と手が抜けると、取り返しのつかない事態になる。津波が想定外でした、などと言い訳ができる問題ではない。
 本書は、現実にこの放射能問題と向き合い、それに対する生活を余儀なくされている人々が、では具体的に何をどうすればよいのか、何を希望することができるのか、そこに徹して、生きる知恵を、信頼のおけるデータにより教えてくれるものである。これこそ、現実に人を扶けるものとなる。当事者の役に立てたら何よりである。そして、傍観者たちが、自分自身の問題として考えるためにも、知るべきことが満載である。原子力発電の電力で生活を支えられている、そしてまた必要以上の娯楽や利便性を享楽している者たちが、福島の人々とどう向き合うか、という問題も、痛切に考慮しなければならないはずである。




Takapan
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