本

『偏愛博物館スケッチ』

ホンとの本

『偏愛博物館スケッチ』
大田垣晴子
角川書店
\1200+
2013.11.

 前編手書きのイラストと文字による、親近感のある構成。こういう本は時々ある。カワイイ文字であることが条件だが、さらにイラストもカワイイことが必要だ。その点、美大からデザイン研究所などの経歴をもつ著者はぴったりだ。こういう人のことを「画文家」と呼ぶようなのだが、この言葉自体は初めて聞いた。
 テーマが決まっているというのが、こうした本の成功を決める。ありふれたものでもいい。「そうそう、あるよね」と思わせるものがどこかあるといい。だがまた、「へえ、そんなものがあるの」と首を突っ込みたくなるような情報はどうしても必要である。
 この本は、東京の博物館を巡ってのレポートである。もちろん、著者の並々ならぬ愛情を感じる。そうでなければ、読む方も惹きこまれない。それがまた、博物館ときている。そう聞くと何かイメージが湧いてくるものであるが、本を開くと、見事に裏切られた。いや、私が無知であったということなのだろう。
 最初の「日本民藝館」はまだよかった。理解の範疇にあった。次が、「目黒寄生虫館」である。これがイラストでなかったら、どんなものだっただろう。いや、イラストだったからよかったのかもしれない。イラストというものは、案外、物事の本質や、一番知りたいところを目立つように出してきてくれるわけで、写真よりも説得力がある場合が多い。ちょっとグロテスクな印象の寄生虫というものも、イラストでその度合が緩和されるし、説明をたどる眼差しもどこか安全だ。すると不思議なことに、寄生虫というものが、なんだか親しみをもてるものに変わってくるように思える。
 切手や酒、鉄道から最後は立派な美術館。見る者を飽きさせない。
 自分の趣味を、人に伝えることに活かす。伝える能力のある人のこうした仕事は好ましい。博物館側としても、大いに宣伝費を出すか、この本をまた強力にバックアップしてよいのではないだろうか。尤も、そういうことを求めて本を著すという人が増えてくると、それはどうかという気もする。なんても商売の筋道に入れ込んでしまうことが、素直な楽しみを奪うようであるなら残念だ。
 とはいえ、つくづく思う。こういう本を見ると、東京というところはいいものだ。何か実物にすぐに触れることができる。そこらに、楽しげなものが、貴重なものが、ふんだんにある街なのだ。政治や経済といったもの、もちろんアミューズメント系統で商売に直結しているものもそこに含まれると私は思うのだが、そうしたものでなく、文化的な財産が、たっぷりと散りばめられている街として、東京が少しうらやましく思えたのは、私だけではないのではないかと思う。




Takapan
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