本

『ゴシック gothic』

ホンとの本

『ゴシック gothic』
ロベルト・ズッカーレ,マティアス・ヴェニガー,マンフレット・ヴントラム
タッシェン・ジャパン
\1575
2007.10

 なんと美しい絵の数々。それらは、今日の観点からすれば、「?」と思わざるをえないような構図であり、捉え方である。西洋中世においては、キリスト教文化が基本であって、今日遺された美術というものは、そのようなものばかりと言えるのかもしれない。それは人間の自由を封じ込め、暗黒時代であった、という一般的な解釈は、専らルネッサンス以降のある意味科学万能時代の見方の名残で、今日はそのような薄っぺらな見方をする学者はいないと言ってよい。たんに蛮族や魔女狩りの中で閉鎖的な強圧的信仰に怯えていたような時代ではないのだ。
 が、その中で「ゴシック様式」というと、その名前の由来が、不気味なものという響きの蔑称からきているということは、人口に膾炙しているが、えてして新たな様式というものは、そういう運命を宿している。印象派もそうだが、肝腎のプロテスタントでさえ、それである。
 ゴシックも、ヨーロッパで300年あまりにわたって継承された文化だというから、江戸時代よりも長いわけで、日本でいえば平安時代を思い描くと近しいのかもしれない。その長きにわたってヨーロッパ文明を支えてきた考え方であるともいえる、ゴシック文化の絵画部門を、ここに整理したのだという。
 それはもう、タフなドイツの学者による叙述である。堅い。その道の専門家にとっては、実に味わいのある説明なのだろうが、素人としてみれば、詳しすぎて、とっつき難い。私は絵を鑑賞するにとどまり、ときおり興味深いものがあれば、本文も眺めてみることにした。
 ひとつひとつの作品について、その画家の生い立ちや背景を十分説いている。美術作品としての詳細な解説も驚きである。
 表紙に、かなり特異なものを選んであるために、これは目を惹くための工作か、とも思われるが、いやはや、中世ヨーロッパで、どのように聖書が読まれていたのか、という点についても興味深い。
 私たちの時代の聖書の読み方が、正しいものと私たちは思いこんでいる。しかし、後世には、「あの時代には……」と振り返られるのは宿命なのだろう。だとすれば、今聖書が蔑ろにされつつある世界のことを、気に病む必要はない。私たちは、この本に並ぶようなきらびやかな文化ではないにしても、同じテキストを前にして生きている。私たちは、どのような美術を遺すのだろうか。
 金色に輝く数々の絵を前にして、私はふと、そんなことを考えた。




Takapan
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