本

『徹底批判 G8サミット その歴史と現在』

ホンとの本

『徹底批判 G8サミット その歴史と現在』
ATTACフランス編
コリン・コバヤシ,杉村昌昭訳
作品社
\1890
2008.6

 北海道洞爺湖サミットが2008年7月に開催された。マスコミは、このサミット自体を批判することはなかった。だから一般に私たちも、サミット自体に問題があるなどというふうには、普通考えていない。
 だが、どうなのだろう。サミット自体を批判するならば、政府側から、取材拒否というあからさまな方法はないかもしれないが、それに近い処遇を与えられる可能性は、ないのだろうか。サミットの決定や検討事項に対する注文や指摘は、社説などでも行っているのであるが、そもそもサミットなどする意味があるのか、というような論調は、まず見られないものである。
 ところがこの本は、そうした観点からサミットを批判し続けているグループによる、重々たる批判本である。しかもそのタイトルは、日本語で付けられたような甘っちょろいものではない。訳者が最後に明らかにしているように、「G8は非合法」という。著者のグループの一人が序章として記しているその最初の挨拶からして、G8は組織としては存在していない、とまず明言するのである。
 サミットの歴史に始まり、そこで行われていること、それも漠然とした印象などではなく、これまでの三十数年の歴史の中でなされてきたことを、実に細かに検討することによって、この本は組織的に研かれた研究書、否、告発本となっている。
 こうした本は、どこかで必要である。すべてが右へ倣えで動きがちなこの国にあって、今もなおマスコミによって一つの印象だけが伝えられて価値観が決定されていくなどということも、普通に起こっていることである。その中で、正当に批判する手段は、止められてはならないし、世界に広く知られるのでなければならない。
 日本のワイドショーは、案の定、サミットの内容は、よく分からないがみたいなふうにもごもごと伝えるにとどめ、そのあとは裏話に走っていた。とくに今回は大統領夫人のような配偶者が出席するだのしないだの、しないのは日本に魅力がないからだの、どうでもよい話で賑わっていた。
 世界のエネルギーの大部分を握っている先進国と自称する国のリーダーたちが、勝手に世界の方向性を決めたり、秩序を決定したりしている。環境問題などと言いながらも、大国Aは、経済的事情からエネルギー節約については無関心なので、自らを犠牲にしようなどという考えはわずかもない。
 世界を動かす力のある国々が意思の疎通をとりあい、今後のビジョンを描くという麗しい理想は、なるほどそれ自身非難されるべきものではないかもしれない。だが、そこで流通するのは、大国の論理だけである。今回のサミットでは、アフリカ諸国の論理もそこに声を流すだけの意味はあったかもしれないが、えてして、大国が「よかった、やれやれ」と自己満足してまた自国に帰っていくことになりがちである。
 山頂に集まるだけでは、しょせん自惚れてしまって終わり、となるだけかもしれない。高い雲の間から世界を見下ろすのではなくて、山も麓と麓を支える汗と涙にも、十分な配慮をし続けてもらいたいものだと思う。




Takapan
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