本

『ふしぎだね!? 聴覚障害のおともだち』

ホンとの本

『ふしぎだね!? 聴覚障害のおともだち』
倉内紀子監修
ミネルヴァ書房
\1890
2008.2.

 子ども向けの「発達と障害を考える本」というシリーズの中の一冊。それらの本のタイトルにはしばしば「ふしぎだね!?」が付いている。それにはちょっと違和感を覚えるが、図書館向けに作られているこの本、中身はたいへん分かりやすくて良い。
 小学生が疑問に思うこと、というのは大人が考えても分からないことが多い。ここでは経験豊かな監修者により、子どもたちが遭遇しそうな状況がいろいろセットされている。その具体的な場面での出来事を軸に解説していくので、子どもにとり非常に分かりやすい仕組みになっていると思う。小学生に抽象的な説明では適用もできないし、理解も難しいのである。
 ストーリーには、3人の子どもが設定されている。学年も異なり、また置かれた状況も微妙に違う。共通しているのは、音の聞こえが弱いということだ。先生が宿題を告げる、ところがそれを懸命に聞き取ろうとする子のまわりでクラスがざわついている。それで宿題を聞いたつもりだったが、実は聞き取れておらず、宿題を忘れてしまう。こういた事例がマンガで紹介される。これに対して、先生も宿題は板書して視覚的に示すこと、クラスでも静かにしようということ、そういった心得が次ページで提案され、それをすることにより、その子も困らなくて済むようになる、ということが記される。また、当の子にとりどんな心理であるのか、ということもまた理解しようと努める。なかなかいい構成だ。
 発音が少し変に聞こえる子を笑ったクラスが理解を示すようになったり、約束の時刻を間違えたお友だちには、口だけでなく指や筆談などを使って大切な約束をするように促したり、基本的な事柄ではあると思うけれど、聞こえる側には気づきにくい生活の端々の事柄が、的確に示されていく。
 次の章では、そもそも聴覚障害とはどういうことか、その仕組みや原因、そしてどう接していけばよいのか、ということが、小学生にも分かりやすく説明されていく。実のところ様々な長い説明が施されるのであるが、それを感じさせないほどであるのは、すでに1章で、子どもにとり身近な事例で、聞こえないということがどういうことなのか、心の中にインプットされているせいだろう。こうした構成が優れている所以である。
 聴覚障害者との接し方、コミュニケーションの取り方、また日常生活で使われる補助用品の紹介も含め、様々な形で、それを理解するように導いていくこの本は、幾度も触れるが、小学生に理解しやすい形で、しかも多くの情報が提供されており、好感がもてる。そしてこれもいつも私が言うことだが、大人にとり一読で分かるこのような本は、大人こそサッと読んで理解するために役立ててほしい本である。図書館でこのような本を見る機会があればぜひ見て戴きたい。さして時間は必要としない。しかし、そこで得るものは絶大である。大人向けの深い本はその後でいい。まず子ども向けの本で理解の基本を養うというのは、実のところ学ぶのに優れている方法だと思うのである。
 さて、最初に私も感じた「ふしぎだね!?」のシリーズ名については、巻末で弁明がなされていた。「当事者にとっては快いものではないかもしれません」とある。私は当事者とは言えないかもしれないが、ろう者との交わりの中で知ったことや感じていることがあるために、甚だしい違和感を覚えたのではないかと思う。しかし、このシリーズのために「保護者の方へ」と記されたそこでは、障害のある人とふれあうことなく育ってきた人にとってはわからないことが多いため、なぜなのか不思議に思うというのは自然な気持ちなのだろう、と説く。この気持ちを責めるのは、却って障害に対する理解を妨げるのではないか、というのだ。まず不思議に思った、だからどうしてなのか理解したい、という、いわば自然な流れを大切にしていこうという提言だったのである。「障害のある人を特別視するのではなく、障害の特製を理解したうえで、ひとりの人間として、ともに生きる仲間として、自然に接することのできる子どもたちがふえるようにと願ってやみません」と結ぶその挨拶は、私が最初に感じた疑問に対して、十分応えるものとなっていた。
 それゆえ、大人の方が読むときには、この巻末の箇所に最初に触れておく、というのもよい方法である。なるほど、子ども向けの本の場合、大人はそういう読み方があったのだ。




Takapan
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