本

『数のはなし』

ホンとの本

『数のはなし』
バニー・クラムパッカー
斉藤隆央+寺町朋子訳
東洋書林
\2520
2008.12

 タイトルの通りだ。これは、数のはなしだ。副題に「ゼロから∞まで」とあるのも、不要なほどだ。
 著者は、ビジネスから編集者を経て物書きになったということなので、数学の専門家ではない。いや、数学の専門家だったら、こんな本をつくることなど、発想しなかったことだろう。
 本は、まず「1」の章から始まる。そこには、「1」にまつわる、世の中のあらゆる話題が詰まっている。文学的なもの、歴史的なもの、そしてこの「1」だけは序章の役割も兼ね備えるのでいろいろ説明的なことが多いものの、とにかくこの世であちこちで囁かれている「1」に関する話題が、洪水のように押し寄せてくる。
 そこには、キリスト教はもちろんのこと、イスラム教や仏教におけるその数字のもつ意味や取り扱いもあり、諺などにおける使われ方はもちろんのこと、日本での風習や文化のことも各章でちゃんと取り扱われているのだから驚く。古今東西あらゆる、数についての話題を網羅しようと欲張った企画のようだ。
 それも、その「1」の中では項目立てをせず、話題がとりとめもなくだらだらと続いていく。まるでよもやま話に花を咲かせる井戸端会議のようだ。だから、どこでどう話題が転換してあのことはどこに載っていたのか、というのを探すのにはえらく手間取る。ただしそのために、巻末に索引が付けられているから、これは非常に良心的な本である。
 このように、「数」についての「はなし」が延々と続いて最後までいって終わるということになっている。章は「2」「3」……と続き、「12」の次には「100」に飛ぶものの、それは構わないだろう。「1000」「100万」と急展開した後、最終章で∞のオチを目指していく。
 いやはや、大したものである。これだけを喋り続けるエンターテイナーがいたら凄いことになるだろう。まくしたてるように、それも一つ一つの話が実に面白い。楽しい話が切れ目なく続いていくのを文字で見ていくのは、壮観の一言に尽きる。
 個人的には、聖書に関する数の話題が多いのがやはりうれしい。しかも、7や12は完全数です、のようなありきたりの説明で終わるはずは絶対にない。急に芸人のギャグに飛んだりお国柄の違いによる笑い話に飛んだり、もうハチャメチャである。また、文字を数字として扱っていたヘブライやギリシアなどの文化にも触れ、この「ゲマトリア」を盛んにいじりながら話を膨らませていくので、もう大変。どこからでもどのような話題にでも移る用意ができているというわけである。「ハト」のギリシア語と、「わたしはαでありωである」のギリシア語がどちらもこの数秘術では同じ「801」になるからハトは三位一体の象徴なのだ、などと言われて、「ほんまかいな!」と思わず突っ込むクリスチャンは数知れないことだろう。
 どこまで本当なのかペテンなのか分からないような気分に包まれながら、ただ読んでいくだけで楽しい気分にさせてもらえる。そこには数学的素養は何もいらない。日常的な「数」の意味さえ把握していれば読める。というより、つまり誰にでもティータイムの話題のように、その世界に入り込める、ということなのだろう。
 アダムがエバを見て声をかけた。「Madam I'm Adam」これを聞いてエバは答えた。「Eve」――最初の有名な回文が、11文字からできているということだけで、「11」の話題の章にどっしり掲載されているというのだから、この楽しさは想像以上だ。
 どうぞ、ちびちび読んでください。




Takapan
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