本

『絵本つくりかた』

ホンとの本

『絵本つくりかた』
つるみゆき
評論社
\1974
2013.2.

 プロの絵本作家が、絵本製作のノウハウを公開してくれた。
 そもそも絵本というのは、それを見ただけですべてが分かり、自分の世界が広がるはずだという性質があるべきものだろう。絵本を開き、そこに書いてあることが分からずに辞書を引く、などといった事態は想定されていない。また、説明を一手に受けて、ふむふむと教えられるというほどのこともあるまい。だが、この本は、教えられる一方の絵本である。つまり、見ただけで絵本のことが一から十まで分かってしまい、しかもそれをまるで知らなかった自分が教えてもらえたというお得感がいっぱいなのである。
 それも、ほんとうに素人が見ても一発で分かるような説明である。こんなに明らかにしちゃっていいのでしょうか、と言いたくなるほど、懇切丁寧で、分かりやすい。説明というのはこうあるべきものだ、という見本のようにできている。
 図示し、また写真を使う。自らの下書きを公開して、それをどう写し取るかまで写真で見せる。自分の作品を用いている以上、誰に断ることもなく、著作権の心配もいらない。まったく、絵本を作る過程にしろ発端にしろ、あらゆることがここにぶちまけられている。まことにありがたい。
 なんとなく、本の作り方というのは、知っていたつもりであったが、実際にやったことがなければ、それはただのムードに過ぎなかったということが分かる。ひとつひとつの工程に、それぞれの理由があり、注意点がある。ちょっとしたことのようでも、知らないと、仕上がりがまるで違うものになる。細かな配慮というものは、確かな知識に基づくものなのだ。
 製本ばかりではない。そもそも絵本のヒントを得るにはどうすればよいか、表現技法の様々な紹介、ストーリーやページ配分など、絵本を作るために必要な知恵で、ここに記されていないことはもうないといえるほどであろう。あとは個々人の愛情ややる気といったことだけではなかろうか。
 時折、絵本についての短いエッセイのようなものが添えられており、それはあたかも絵本哲学を見るかのようである。一冊の本の中に、贅沢な企画が盛り込まれており、これは安い買い物ではないだろうかと個人的には思う。
 そして最後には、Webで電子書籍として絵本を公開する方法も、実に丁寧に分かりやすく教えてくれている。私は知らなかった。いや、ここに紹介されているほかに、素人達が電子書籍を自由に作り公開するというサイトがあることは知っていたが、どうもそこはあまりに素人くさくて、まあそういう同好会のようなものだろうな、とばかり思っていたのだが、ここにあるのはどうやら違うようだ。素人のも多いが、準プロ級、あるいはプロの方も加わっている。もっと洗練された場所に見えた。
 絵本の名作についてもあちこちでちりばめられており、よい絵本を知る機会ともなるだろう。もし絵本というジャンルでなかったとしても、自己表現を心がける人には、知って損のない有益な一冊となるだろう。これはお薦めだ。
 なお、タイトルは確かに『絵本つくりかた』であって、「の」の字は入らないので、念のため。




Takapan
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