本

『絵本で子育て』

ホンとの本

『絵本で子育て』
秋田喜代美・増田時枝
岩崎書店
\1575
2009.11

 見開き2頁中で、Q&A形式で本は進んでいく。だから、どこから読み始めてもよい。また、年齢別の構成になっているので、当該の年齢のお子さんをお持ちの方はその辺りを熱心に見るとよいようにできている。
 そう言うと、よくある子育て相談をイメージさせるが、この本がユニークなのは、すべて絵本で解決しているということだ。どの質問にも、1〜3冊の絵本が最後に紹介されている。そしてその絵本の内容を頼りに、相談に対する答えが進められていくのである。
 好奇心が旺盛で、落ち着きのない子の相談に対しては、『どろんこハリー』が持ち出される。そこには、子どもの発達という視点も提供してくれるという。嘘の話を得意そうに話す子の相談には、『かいじゅうたちのいるところ』が紹介される。
 いずれも、教訓めいたものでなく、実際的な対処を提供している。また、子どもがその絵本を読んで気づくというよりも、むしろ私には、親がその絵本から、子どもというものを認識していくように勧められているように見える。保育のプロには周知のことでも、一般の親にしてみれば、嘘をつく子どもという目で見てしまいがちなところを、子どもの世界というものはどういうことなのか、説明してくれるのである。その説明が、たんに専門家が偉そうに言うというのでなく、実際に子どもたちが受け容れて好んで読まれる絵本を取り上げることによって、子どもが何に共感しているかという次元から伝えてくれるので、読むほうも、嫌味な思いを抱くことが少ないであろう。
 本のサブタイトルは「子どもの育ちを見つめる心理学」とある。これは確かに心理学の本なのだ。しかし、専門用語を並べる代わりに、絵本を並べる。ここに、この本のユニークさがある。絵本を実際に知っていればさらによいし、知らなくても、その絵本から親が学びたいことを必要なだけ与えてくれるので、一読するだけで、相談に対する別の視点を得ることができるだろう。
 見開きの中ですべての説明を終えようとしているので、見易いのは間違いないが、果たしてもっと深く立ち入って説明を施したほうがよいのではなかったか、と思われることがないわけではない。しかし、読む方としてみれば、指針を与えてもらえばよいわけだし、別の視点というのは、長い説明によってこそ可能という訳でもないので、これでよかったのではないかと私は考えている。
 驚くべきことは、これだけの内容と量とを具えておきながら、本の価格が安いと思われることである。造り上げるのにどれほどの努力があったかを思うと、本当にありがたい。
 さらにこれをきっかけとして、親がもっと絵本というものに興味をもち、決して教訓的な意味でなく、楽しんで絵本に触れて感じ入っていけるようになれば、と願う。その意味では、絵本の伝道のために役立つとも言えるだろう。子どもたちは、何も教えを乞うために絵本を開いているのではなく、ただ楽しいから開くのである。本来、何の説明もいらないものである。絵本はそのものをそのまま楽しんだらいい。だからこの絵本紹介の本は、あくまでも親の目を開くためのものであると理解しておきたいものである。




Takapan
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