本

『読書感想文を楽しもう』

ホンとの本

『読書感想文を楽しもう』
若林千鶴
全国学校図書館協議会
\1470
2010.5.

 図書館には、図書館のための本がわりとあって、探すと、一般書店にはまずないのではないかと思われるような、図書に関する蘊蓄の詰まったようなものがある。これは教育的な配慮からきたものだから、学校の先生や司書のような立場の人しか手に取らないような正確の本である。「本と子どもを結ぶ読書感想文の書かせかた」という副題が付いている。私も国語を担当するときに、読書感想文を書かせることがあるので、関心をもって手に取った。私は、殊更のテクニックがあるわけではない。題名に「〜を読んで」だけはやめよう、など、この本にもあったことに賛同できることもあるが、たいていは「楽しく書こう」をモットーににこにこ「その気」にさせるばかりだ。
 その点、この本は違う。実際上の現場において考えるべきこと、指導する側がぶつかる困難などを想定しながら、どこか実況中継のような気分で眺めていくような本であると思った。なるほど、後で著者のプロフィールを見ると、現役の中学校の国語の先生だ。図書館のほうも担当しているそうで、そのように実際の現場での空気がこの本に満ちているというのは、当たり前のことなのだ。
 細かな点をここで紹介するのは適切でない。どうぞこの本をご覧下さればいい。ただ、何か、読んだ後、違和感を覚えた私は、その理由を考えてみた。この本には、経験からくる多くの具体的な情景が描いてある。また、心構えみたいなものもふんだんに書いてある。現場の教師ならば当然運び入ろうとするような、全体に話す注意のようなものだ。だが、あまりにも国語の授業的で、注意点が明確に羅列されるというほどのことはない。具体的とはいっても、どこか情緒的に、なんとなくそういう空気を作っていくのだ、というような構えを感じるのだ。
 たとえば、先に例を挙げた、感想文のタイトルについて。「題名は、自分の書いた文章の「顔」になるので、内容にふさわしい、また「読む気」を起こさせるような題名をつけることを指導します」とある。そして「ぜひ題名にもひと工夫させてみてください」という。だが、それをどうしてよいか分からないから、依然として大多数の子どもが「〜を読んで」にしてしまうのではないだろうか。子どもがどう方向付けられたら、読む気を起こさせる題名がつけられるのか、どんな工夫をすればよいのか、そここそが、分からないところであって、教えてほしいところではないだろうか。私は、たとえばこのように子どもたちに告げる。小学校中学年から高学年あたりだ。「映画をつくろう。さあ、この感想文が、映画になるぞ。街にポスターが貼られるよ。見に来てもらいたいなあ。映画のタイトルをどうしよう。何かカッコいいタイトルを考えよう」と。すると、映画のタイトルというイメージが子どもたちの中に膨らむ。中にはお調子者がいるから、ちょっと行き過ぎたタイトルを考案して発表する。私はそれに非難を加えない。「いいねえ。魅力的だ。その線でいこう」と全部肯定的に返す。他の子も「あんなんでいいんだ」とホッとする。こんな具合だ。
 また、学年に応じても、指導法はがらりと変わるのではないかと思うか、小学校低学年のための書き方かと思った次には、中学生に書かせる話のようになっていくなど、ターゲットという点でピントが合っていなかったようにも見える。恐らく、感想文については、中学生を念頭に置いているものと思われる。中学校の先生だからだ。しかし、「子ども」と多くの場合表現するのと、表紙にもそれがあったり、表紙の絵が小学生のように見えたりすることで、このせっかくの読書感想文への提案が、実は中学生をターゲットにしている、ということが気づかれないようになってしまっている。もったいない。それこそ、この本の題名ないし副題に、「中学生」という文字がないので、相応しい「顔」づくりに失敗しているような気がしてならないのである。
 そこで、せっかくの経験と深い考察とを活かすためにも、この本の内容を改訂して、よりよい感想文指導のテキストとして生みだしてほしいものだと願う。ターゲットを明確にすること。指導の対象毎に、段階的な指導を明らかにすること。子どもたちには一度に沢山のことを言っても伝わらないから、ひとつずつ弁えてもらうことを順番に言う必要があるわけで、それらをなるべく箇条書きにし、あるいは図表で、指導者が心得ることを明確に並べて示すこと。指導が長期にわたるときの段階と、それから同じ一時間の授業の中でのもっていきかたの段階とが、現実的に具体的に紹介されたらと思う。また、日常的に、文章で自己表現をすることの楽しさを感じさせるような工夫を紹介してもらいたい。小学一年生にはよく、「先生あのね」で数十文字以内の文章が日課にされている。子どもは書いて表現することの中に自分を見出すし、また表現することが自然にその子の日常になっていく。中学生にもそのように、自分を出していいんだ、と安心させるような試みはないだろうか。現場の先生だからこそ、そうした知恵を、ぜひ紹介して戴きたい。
 決して悪くない狙いであるから、この本の中身をもっと作りかえて、分かりやすいようにして欲しいと、密かに思ったのであった。




Takapan
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