本

『電子ブック 自炊 完全マニュアル』

ホンとの本

『電子ブック 自炊 完全マニュアル』
戸田覚
東洋経済新報社
\1470
2010.12.

 自炊という言葉が、ここのところあちこちから聞こえてくる。誰が名付けたのか知らないが、面白い表現だ。
 電子書籍にまつわる、現在の状況をよく示しているテクニックである。
 端末が販売され始めている。しかし、電子書籍のいわばソフトたる書籍そのものの販売がまだ十分満足のいくものとして成熟していない。つまりは、出版数が少ない。この途上の時代にあって、電子書籍端末を利用するため、つまりそれで本を読むためには、どうすればよいかという答えの一つが、これである。自分で持っている本を、スキャンして電子データ化するのである。
 もとより、自分の愛着のある本は、これから電子出版化されることは期待薄であろう。昔の本、今は市場に出回っていない本である。これを、持ち歩いて読むということはできないのか。それが、スキャンである。
 また、こういう考えもある。電子書籍だと、数千冊もの本のデータが、端末本体、あるいは小さなカードメディアに収まってしまう。本を読むのが好きな人は、家に本が溜まっていくとき、そこに住宅事情が加わり、少しでも減らせないかということは、常々考えている懸案なのである。これを、電子ブックは簡単に解決してくれるのである。
 そこで、自分の蔵書をスキャンする必要があるが、従来のように見開きでコピーのようにすると、中央に線が入る。一頁ずつ読みとるにしても、端のほうが湾曲するなど、なんとか読めるにしても、本の代わりになるほどのものではない。しかも、読みとっても本を保存しておくのでは、蔵書の悩みが解決できない。
 つまり、捨てる。本は捨てるが、中身は電子データとして所有している、そういう状態にするのが、この自炊ということである。
 本を裁断する。もはやばらばらの紙となった本を、さて、スキャンするとなると、とてつもない時間がかかる。そこで需要が増大したのが、ドキュメントスキャナーなるもの。紙の束のまま差し込むと自動的に両面を読みとっていく仕組みである。昨今のコピー機などにはすでにそのような機能が広く使われているため、個人用に応用するのも難しいことではない。あとは価格の問題だ。これも、需要が増せば下がってこよう。この本の筆者の説明によると、数万円で手が届く段階にまできているのだという。そして、今どんどん売れているのだという。
 数分単位でスキャンができる。これを、PDF化すれば、端末で読めるという具合である。
 ただ、まだ電子書籍も、そのファイル形式からして、メーカーにより扱いの差があり、規格が定まっているとは言い難い。読みとるにしても、将来的にどうなるかという悩みが加わるであろう。本体の本は捨てるのであるから、データ化したが最後、安易に再びスキャンするというわけにはゆかないのだ。
 こうして、現段階の事情ではあるだろうが、この自炊という行為について、実のところ細々とした注意や方法についてレクチャーするという本が、そう多く出ているわけではない。この本は、実際に自炊をしようという人が、具体的に何をどうすればよいのか、注意すべきことなど、細かく実用的なものとして教えてくれる本となっている。具体的である反面、著者の体験に基づくレクチャーであるから、そこで言われていることがすべてでないということは、心得ておく必要があるだろう。逆に、細かな機械の扱い方など、使い込んだ人ならではのアドバイスもあるのは楽しみである。
 やがて、この自炊という行為は、なくなっていくのかもしれない。電子書籍市場が充実していくのかもしれない。古い本もまた、何らかの形でデータ化していく可能性がある。それが商売になるのであれば、きっと誰かがするのであろう。
 もちろん、自炊は自炊なのであって、誰かが代行すると、著作権の問題が生じる。現に、このような本が自炊のテクニックを紹介したことにより、成功した自炊データを、公開して物議を醸すという事態が起こっているし、まさに今日(2011年2月2日)も、前日からだが、その点が報道されている。情報を提供すること自体は問題がないが、それを違法に実行する者が現れるというのは、世の常ではある。こうしてデリケートな問題が加わるのであるが、法的な問題も、また技術に追いつくべく、調えられていかなければならないと感じる。今の政治家には、そのゆとりはないようではあるけれども。




Takapan
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