本

『脱皮コレクション』

ホンとの本

『脱皮コレクション』
岡島秀治監修・新開孝・関慎太郎写真
日本文芸社
\1470
2011.6.

 私の感覚からすると、たいへん安い。内容的にも面白く、また貴重であり、撮影や製作にはたいそうな時間や手間がかかっているだろうことを考えると、これだけの量の写真と優れた紙質の製本を前にしてこの価格は激しく安いと思う。
 サブタイトルに「のぞいてみませんか? 生きものたちの秘密の時間を。」とある。セミの羽化の写真が表紙を飾っている。アブラゼミの羽根が美しい黄緑色であることに驚かされる。通常こうした羽化を含む脱皮の瞬間など、まず私たちは見合わせるチャンスはない。それを見ようと上手に飼育している人でも、その瞬間を見るというのは幸運なことであるらしい。
 だがこの本は、それのオンパレードなのである。クモ・カエル・ヘビ・カマキリ・ゼミ・チョウは当然、はえやイナゴ、トンボに加えてヤモリ、そしてザリガニにまで至る。もう見事としか言いようがない。写真もすべて実に美しい。また、この際脱皮を通してその生き物に親しくなろうというつもりなのか、生態や特徴などについてもずいぶん詳しく書かれている。
 私が目を覚まされるような思いになったのはいくつもあるが、ダンゴムシというのはどうだろう。殻はカルシウム成分であるらしく、体の半分からカルシウムを抜き、その皮を脱ぐ。するとそこにまたカルシウムを戻して、固く変えるのだという。これを半身ずつ行う。脱いだ皮は再び食べて、養分を吸収する。なんとエコなのだろう。ダンゴムシ自体、落ち葉を土に分解する、自然界の掃除屋として名が通ったいるわけだが、ここまで養分などを再利用して無駄なく使うというのは、なんとも立派である。ダンゴムシを尊敬する気持ちになった。
 そもそも脱皮は何のためにするのか。本書には最初にそれが大きく取り上げられている。まず、大きくなるため。次に、変身するため。そして皮膚を新しくするためであるという。
 人間は脱皮とは言わないが、皮膚の新陳代謝により似たような効果をもたらしていると言えるのだろうが、これまでの罪の自分に死に、新しい命に生きるようになるというのは、一種の脱皮現象のようには考えられないだろうか。
 ともかく、この本は立派な写真集である。よくぞここまで撮影できたものだとびっくりするしかないのだが、考えてみれば、私たちがその生き物を「知っている」と思いこんでいたのは、とんでもない嘘であるということをつくづく感じた。自分が知っていることなど、ごくごく僅かのことでしかないのである。脱皮の連続写真を見て、この撮影者の苦労と技術とを想像するが、自然とは何と美しいのだろう、機能的なのだろう、と脅威を覚えざるをえないものである。




Takapan
ホンとの本にもどります たかぱんワイドのトップページにもどります






 
inserted by FC2 system