本

『だまし絵の描き方入門』

ホンとの本

『だまし絵の描き方入門』
杉原厚吉
誠文堂新光社
\1680
2008.7

 各方面で、地味のようだが興味深い、まさにその名の通りに誠実な出版を続けている会社から、また面白い本が出た。
 サブタイトルに「エッシャーの描法で不思議な絵が誰でも描ける」と掲げてある。これまでにも、エッシャーの絵を立体で示すとどうなるか、とペーパークラフトの本を出版するなど楽しい試みを紹介している著者である。
 こうなると、エッシャーという名が当然知られているという前提になっているわけだが、もしその名が出てこなくても、絵を見れば、誰もが見たことがあると肯く時代になっているのではないだろうか。
 その不思議な絵のからくりを単に説明するというようなものではなく、読者が実際にこのようにすれば同じものを描くことができる、というのだから、エッシャーを好む人にはたまらない企画である。
 当然、普通の絵とだまし絵とが実は紙一重というところもあるわけで、どこをどうすれば不思議な絵になるのか、という点が比較の上で強調されている。
 が、立体の錯視のようなものに留まらず、メタモルフォーシスの技をその簡単な原理から説明したり、隠し絵の仕組みと、タイリングアートの製作実践を明かしたりして、ここまで言っちゃっていいのか、というくらい、手の内を明らかにしてくれている。
 さらに、こうして原理的なものを得ただけでは、作品とならないこと、つまりそこに芸術の香りをつけるのは、読者がこれから実践する中で見つけるべき道であることを告げて、本を閉じている。デザインの実践の中で、これらの技術を活かしてほしい、ということである。
 著者が語るように、これは数理工学の分野である。だがそこに、感情を交えていくのは、アーチストの腕となるのだろう。ただ昨今の芸術となると、そうとうな数理の知識すら必要になることがある、ということも、伝わってくる。
 なかなか大変だ。




Takapan
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