本

『大学では教えてくれない大学生のための22の大切なコト』

ホンとの本

『大学では教えてくれない大学生のための22の大切なコト』
佐藤剛史編
西日本新聞社
\840
2010.7.

 福岡を中心として、九州一円をカバーしようとする新聞が、西日本新聞である。福岡新聞というものはない。ここが「西日本新聞ブックレット」というシリーズを出している。新聞に連載された記事のうち、まとまったものをコンパクトな小冊子に編集して出版しているという具合である。とくに、「食卓の向こう側」というシリーズが著名で、食生活について問題を投げかけている。このブックレットの第26弾として出版された本書は、その食生活という側面も踏まえながら、装丁も凝ったものとなり、大学生一般に呼びかける、質の良いものとなっている。
 装丁と言ったが、大学ノートのデザインである。元来立派な大学生だけが使う高品質のものだという意味だったらしく、一種のステイタスのようなものであるそうだが、今の大学生が果たして使っているのかどうかはよく知らない。ただ、明らかに大学新入生にターゲットを絞り、呼びかける内容となっている。
 若い人への教育ということについては、若い側から働きかけたり、言葉は悪いが大人の技を盗み取ろうとしたりしたのは古のこと。今は、何も知らない若者に、大人のほうから懇切丁寧に指導していかないと、知らないままで終わりそうだ。要するに塾に頼らないと勉強できないというような構造なのだが、それはともかく、結婚生活に対してもこうしたマニュアルが出ているくらいだから、大学生にも必要であることは火を見るより明らかであった。だが、昔の『蛍雪時代』や『高三コース』のような、一種はポピュラーな学生誌が存在しない時代に、何らかの働きかけが必要だというのも事実であろう。
 項目が22にまとめられている。「命」について、「食」について、「性」について、「職業」について、語られる。本書の項目はこの通りの言葉ではないのだが、およそそういうことである。どうかすると、お説教臭いところがないわけではない。だが、概して、しみじみと、大人が自分の弱さもかみしめながら、実のところを語っている、というふうでもある。あまり高いところから見下すように教えこむようなふうでなく、いい感じではないかと思う。
 でも、やはり正論ではある。新聞に載せる原稿であれば、このくらいの良識線は保たねばなるまい。もっとぐちゃぐちゃな経験をした人や生々しい体験の人に近づくような語り方も世の中はあるだろう。どこか、優等生で過ごしてきた高校生がさあ大学生になる、そういうところに語りかけるような調子であるようだ。ある意味で仕方があるまい。また、そのようなものがひとつまかり通るような世の中であってほしい、とも思う。その王道がベースにあって、それでもなおそこに乗りきれない人を支えるような営みならよいのであるが、さも真面目に歩く人が時代遅れであるとか気取っているとかいう目で見られるようではあってほしくないと思う。
 おとなしいアドバイスである。だが、大人の本音というのを伝える義務は、やはり大人にはある。そしてまた、実のところそういうふうなお説教を、若い世代も聞きたいのではないかと思いたいし、そうあってほしい。あまりに正論を偉そうに語ることには反発するにしても、痛みをもち、誠意を抱いて語る大人の声は、聞いてみたいと考えているのではないかと期待するのだ。
 そのためにはまた、大人自身が、誠意をもって生きなければならない。つまりは、大人の側が自分たちの生き方を試されているのだ、というふうにこの本を見ることもできるだろうし、その意味で大人が目を通して、自分の生き方を顧みるようであってほしい。私はむしろ、そこに意義を見出したいとも思った。




Takapan
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