本

『色のユニバーサルデザイン』

ホンとの本

『色のユニバーサルデザイン』
(財)日本色彩研究所
(社)全国服飾教育者連合会(A・F・T)監修
グラフィック社
\2415
2012.3.

 思わず拍手を贈りたくなる本だ。
 色彩検定関連書というふれこみで、大いにその参考になることであるだろうし、そのためにこの立派な制作陣があるのだとも思う。色彩のデザインは、もはや現在では、このユニバーサルデザインを抜きにしてはありえないようになっている。
 と言っても、あまり表に話題になっていないことであるから、これだけでは何のことだかお分かりになれない可能性が高いかと思われる。
 私は身近に、色覚についてマイノリティに属する人を知っているために、この問題にはいくらか関心がある。つまり、以前は「色盲」と呼ばれていた事柄だ。あるいはその程度によっては「色弱」とも言った。「色覚障害者」などとも今言われることがあるが、いずれにしても、それが障害であるという意識を拭うことができない呼び名である。
 でも異常でしょ、障害でいいんじゃないの、という意見もあるこどたろう。しかし、これには考えてみればいよいよ問題が深くなっていく。というのは、まず色彩について、そもそも健常者とされている人であっても、同じものを見ているという保証がないという前提がある。確かに、これは赤だね、そうだね、という会話は成り立つ。だが、見ている赤が同じ感覚であるかどうかは、確かめようがないのだ。ただ、それぞれの色の区別がつくという点では、このマイノリティとは異なっている。けれども、
 赤と緑とが区別つきにくい形の見え方があることはよく知られている。だが、細かく見ていくと、同じその系統でも、黒が入ったときに見えにくいかどうかなど、網膜の錐体細胞の状況によりいくつかの型があるという。そのすべてにおいてうまく見えるような色づかいというのがあるのだろうか。
 コントラストをつける、地図のべた塗りならば横線などを入れる、たとえ多くの人とは違った色具合に見えるにせよ、他の色と区別ができるような配色で記す、などの対処により、それらの人が色による区別について誤った判断をしなくて済むようになるという。グラフでも、文字でも、縁取りをするだけでも、ずいぶん見え方が違ってくるのだ。こういうことが分かってきた以上、もっと表に知らせて理解を増やしてもらうべきだと思う。
 そうした代表的な見え方が、この本の中ではリアルに再現されている。このような色具合にその人は見えているはずだ、として、私たちの世の中にあるものが如何にそうした人に見えにくい、分かりづらい配色になっているかが明らかになっていく。この再現性が、またびっくりなのである。
 地下鉄など公共機関の路線図は、しばしば色だけで区別されている。だが、その色の選択によっては、この色弱者にとっては全く区別がつかないという事態が起こる。呑む薬のカプセルが色分けだけされていて、朝は赤、昼は緑、などと言われても、その見分けがつかないとなると、どうなるのだろう。これは命に関わるではないか。
 この本は、そういった視点を大切にする。つまり、色弱者だけがターゲットなのではない。高齢者も然り。色具合が見えにくくなっていく。そして優れているこの本の特長がまたある。色弱、高齢者の視野など、その理論的背景がきちんと説明されていることである。中には素人には理解が難しい説明も当然ある。だが、理解は深まることは当然ある。それよりも、判明しているメカニズムを蔑ろにして、この問題を深く考えていくことはできないはずである。
 実際、それを考慮して、すでにいくつものメーカーから、ユニバーサルデザインの商品が作られ、販売されている。マッキーというペンには、そのセットのどれをとっても他の色と同じに見えることはまずないような開発製品があるのだという。これで迷わずにディスプレイの作成も可能である。
 そんなに意味があるのだろうか、と思う人もいるだろうか。だがこれは遺伝的に優先されない側のDNAに含まれるため、はっきりと出現するのは、殆どが男性である。そして、日本人の場合、男性の20人に1人が、この色彩についての問題を抱えているのだとこの本は告げている。学校の教室一クラスに1人はほぼいるような計算ではないか。
 私もこのことを知ってから、富士通の無料ソフトを使い、ウェブサイトの色彩の中で、見えにくいのはどれか、を調べてもらったことがある。すると、見えにくい色づかいをたくさんしていた事に気づいた。ある程度直していったのだが、さて、実のところどうなのか、それは特に誰かに意見を尋ねたわけではない。
 ともかく、奇妙な治療などを滅ぼす必要はない。それぞれにものの考え方が違うのは当たり前である。だったら、若干の色の見え方の違いについて、無駄な騒ぎをしないようにしよう。人それぞれ感覚は違うのだ、という前提にでも立てば、互いへの理解が増していくのではないだろうか。
 とにかくこの一冊で、あらましは全部分かる。さらにメカニズムの理解にも役立つ。具体的に何をどうすればよいのか、例示してくれる個所がある。ただ見るだけでも、大いに参考になるであろう。そして、社会全体が、このような見え方をする人のことを考えていけたらと願う。高齢化社会の中では、すでに大きな問題として認識しなければならない状況にあると言えるはずなので、もっと宣伝したほうがよいと思う。




Takapan
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