本

『文具と雑貨づくりの教科書』

ホンとの本

『文具と雑貨づくりの教科書』
日経デザイン編
日経BP社
\3300+
2016.3.

 文房具の世界も日進月歩なので、鮮度が大切な本である。だが今回これは教科書として出ている。教科書は雑誌ではない。最新情報ではなくても通用する世界がそこにある。ではこの文具や雑貨についての情報は、最新でなくてもよいということなのだろうか。  結論から言えば、そうである。これは日経の発行物。なにも、文具のメカニズムが説明されているわけではない。また、絶えず変化する「今」売れているものを紹介するのが目的ではない。
 文具は、ちょっとした工夫で大ヒットすることのある商品領域である。付箋など、コストがゼロに近いようなものでありつつ、そうとうな価格を付けて売ることができるものである。いや、それが悪いなどと言っているのではない。眼鏡などもそうだが、原価そのものと販売価格との間に差があるものには、それなりの理由もあり、一概にその比率がどうということはいえない。ただ、付加価値の高さは、デザインや機能性というところにあるとすれば、大いに費用をかけて開発して戴きたいものである。
 だから、そこはさすが日経、ビジネスとしての文具販売という観点で、開発を含め、裏話をたくさん取り入れ、魅力ある本にしてくれた。インタビューを含め、たっぷりの記事とカタログかと見紛うほどの魅力的な写真の連続で、美しい本になっている。本の価格はそこそこあるのだが、開発者にとってはむしろ安くて魅力ある本になっているのではないだろうか。
 そもそも私は文具が大好きである。いまは無き文具雑誌を毎号買っていた履歴もある。近年は、文具協会というのか、ニュースブックレットが文具店に置いてあると必ずそれを手に取り隅々まで見る。雑誌の文具特集号のようなものは、極力買わないことにしているが、かなり気になっているのは事実。そういう私が見て、この「教科書」は、たしかに読み応えのある本であるに違いなかった。人気の商品、また見かける商品の開発秘話などは興味深いし、そこに人間ドラマもある。しかしそれ以上に、人々がどのように道具を使うのか、何を求めているのか、という点を執拗に追いかけること、またその意識で生活していることにより、生活の何気ない場面で新しいアイディアに気づくという物語を、わくわくして追いかけてしまうのである。
 何に目をつけるか。発見するためにどういう準備をするのか。これは、なにも文具開発に限らない。きっと、文具とは何の関係もない業界の人も、この「教科書」は役立つに違いない。すでに目をつけられていて、熱心に読まれているのかもしれない。それだけの価値がある本ではないか、と、ビジネスにはなんの関係もない私が、密かに思い、にやにやしている次第である。




Takapan
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