本

『文章力が豊かになる本』

ホンとの本

『文章力が豊かになる本』
小笠原信之
高橋書店
\1260
2012.1.

 そもそも日本語は、表現が多様であるらしい。この本は実はこういうところからスタートしている。単語としてカウントされやすい西欧語と比べて、同じ意味の言葉でも実にたくさんの言い換えができ、また若干の語の変化をもつ日本語は、逆にどの言葉がどの場合に適切であるか、という問題について、明確な解答を誰もが有しているわけではないのである。
 新聞記者からジャーナリストとなった人による本である。編集について教育する立場にもあるらしく、評判もいいそうだ。だからまた、この本も、実に微細なニュアンスの違いまでも、それも明晰に説いていると言える。シャープな解説が心に残る。名詞をつくる「〜さ」と「〜み」だが、どう違うのだろうか。著者は、「〜さ」で程度を、「〜み」で丸ごとの感覚や様子を表す、と言っている。なるほど、その説明は、長年の指導の経験もあり、分かりやすい。副題に「語彙力・表現力が身につく!」とあるのもその通りだろう。まるで文章教室でひとつひとつ解説を施していくかのように、多くのことばが俎に載る。そのたびに、聞く方は唸るのである。なるほど、と。
 挙げればきりがない言葉の区別だが、中でも使い分けの微妙な概念の語の違いについて具体的に挙げ続ける第3章がメインである、とまえがきのようなところにも書かれている。そして詳細に述べられないほど、その例がたくさんあるものだから、ついにもっとあるという意味で一覧する頁まで作られてしまった。本当に言葉は数多い。
 しかし、第4章になると、様相が一変する。そこは、「要領よく描写する、説明する」と題され、描写や説明に加え、上手にまとめる方法が掲げられている。ところがここが、実に抽象的なのだ。プレゼンテーションのように図示された中で、理論的な結末が示されている。もちろん、その都度「例文」というものはあるのだが、それがどうその抽象的な概念を具現しているのか、について説くスペースを持ち得ないのだ。いや、それをしている部分もある。が、その例文がなんとも私たちの書く場面の内容から遊離したような印象さえ与えるテーマばかりで、もうひとつピンとこないのである。
 しかし、そういう構成めいた理論は、専門家に任せておいたほうがよいかもしれない。私たちとしては、この本を見ていて教えられる、語の微妙な違いによる意味の差に注目すれば、まずは役立つというものだ。具体的な語の違いがたくさん集められているこの本は、役立ちそうな気がする。
 それでも、疑問がある。では私たちが、あることを表現しようと思い、どういう語があるのか調べたい、あるいはどの語を選べば自分が一番表現したい内容に相応しいか、などをこの本から見いだそうとしたとしよう。――それが難しいのである。どこに目的の言葉について書かれているか、殆ど捜索不可能と言ってもよいくらいだ。
 たぶん、コストと手間の点から省かれたのだろうとは思うが、この本には索引がない。実に役立つ言葉の相違の説明の宝庫でありながら、それを検索する仕組みが全くないのである。第3章は、取り上げられた語が見出しになっているので、目次でもだいたい探すのは可能のように見える。が、それも見出しに現れた語だけである。「まだまだある! 使える言葉」は品詞別に何カ所かに分かれており、品詞で探せばなんとかなるかもしれないが、目指す語をそこに探せばよいのかどうかは、全くの未知の世界となるであろう。
 こうして、たいへん良い内容ではあるのだが、実際に使おうとすると難があることが分かった。この本を最初から最後まで、多くの語の意味や使われ方を頭に入れてしまって、それから文章を書くのであれば、問題はないのかもしれないが、普通私たちはそんなことをしない。実際にどう使い分けようか、と思案したときに、この本から探したいのである。そして、それが実に困難な作業となっているのである。やはり、索引は付けるべきであった。




Takapan
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