本

『日本の図像 美人』

ホンとの本

『日本の図像 美人』
ピエ・ブックス
\3990
2008.4.

 最近、見るだけで十分楽しめる優れた本を、多く出版している、ピエ・ブックス。ここにまた、興味深い美術の本を見つけた。
 美人。
 魅力的な響きである。女性はどう感じるか知れないが、男性からすれば、憧れでもあるし、心奪われるまさに魅惑的な存在である。自分のものにしたい、という下賤な欲望だけがすべてではない。ただ鑑賞するだけでもいい、神聖な美をそこに感じるのも事実である。だから、絵心があれば、美人を描きたいというのは、ごく普通の素直な感情なのだ。
 この本は、辞典並の重みをもっている。抱えると、ちょうど国語辞典のような感覚だ。良質の厚紙に美しく印刷されているためだ。そこには、江戸時代あたりから明治、ないし昭和に至るまでの、美人画が集められている。ときに、美人の顔や姿だけが分かるように、大きな図版の中から「部分」を抜き出している。それほどに、その絵や美術作品そのものを理解しようというよりは、描かれている美人のほうに関心を集めた本である。ある意味で、美術的な側面からすれば邪道である。しかしまた、同じその絵の全体像を別の頁で紹介するという配慮も忘れない。時折カラーを脱しているときがあるが、製本上の事情もあるだろうから、それは仕方がない。
 文字が殆どない本である。最後のほうで、それぞれの絵についての解説と画家の紹介が施してあるが、それ以外には、口もと、肌、化粧など、八つのパーツについて美人画の魅力を解く説明が散らばっているだけである。ただ、この解説が、実にいい。短くまとまっているが、読む者に鮮烈な印象を残す。たとえば、古来の美人画を見ると、当時の女性はそんな顔をしていたかのような錯覚に陥ることがあるが、それは違う、と述べているところがある。今の少女漫画の顔が、実際の女性と同じかどうか考えてみれば分かる、と。その通りだ。どこまでも、絵としての都合もあれば、描く者、見る者の思い入れや憧憬といったものもそこには混じる。美人画は写真ではない。人が女性の姿をどう受け止めたか、の証しである。そのことにも、改めて気づかされる。
 ぱらぱらとめくっていくだけで、いい。おそらく、本の制作者も、そうした気持ちではないだろうか。資料を集め、配置するのにはずいぶんと苦労をするだろう。細かな配慮を分かってほしい、という願いもこめられているに違いない。しかしながら、結局のところ、この本を手にとって、眺め、女性を美しいと、いわば「ぽーっ」となる男性がいればいいのかもしれないし、現代でも描かれる側の女性が、どう描かれるものかを感じてくれたらいいのかもしれない。こういう、どこかストイックな編集が、この出版社は好きであるような気がする。粋なはからいである。
 それにしても、これらの美人画の中では最も非写実的であろう、竹久夢二の描く女性は、やはり心惹くものがある。それは私の趣味なのだろうか。当時の男性も、夢二の絵には、「萌え」たのではないだろうか。




Takapan
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