本

『県別 罵詈雑言辞典』

ホンとの本

『県別 罵詈雑言辞典』
真田信治・友定賢治編
東京堂出版
\2940
2011.9.

 さても、魅惑的なタイトルである。都道府県別に、悪口ばかりを集めた辞書だというのである。
 京都府とはいえ、福知山であるから、いわゆる京都とは違う。妻の出身地は、京言葉とはまた違い、わりと乱暴な言葉遣いも多いという。関西でも大阪はまた有名だが、これがまた南部へいくと、さらに威勢が良くなる。要するに喧嘩腰になったときの言葉は、怖いだろう。そして妻は福岡に来たとき、人の何気ない会話が、皆ケンカしているように聞こえたとも言った。その点、京都は、福知山も含めて、どこかまだ本音を簡単に言わない文化であったのだ。福岡は、本音でもあけすけに言う。だから、京風に「いけず」はもちろんのこと、それとない「いやみ」も通じないという。あてこすりを言っても、けろっとしているというのだ。
 貴族文化を千年続けた京都は、今もって、どこか都意識が強い。京都から引っ越すと都落ちと呼び、またよそものに対する垣根もきちんと存在している。そして貴族というものは、あからさまに非難をすることはタブーである。他人を安易に誹謗すると、自分が責められる。同じ批判をするにしても、通じる「粋」な人だけが分かるような言い方をする。それが分かる人こそが高貴なのであり、通じない人は「無粋」な田舎者でしかないのである。それで、京都には、あからさまに他人を侮辱するような言い方は発展していない。露骨に馬鹿にするような言い方は、基本的に貴族文化には存在しないのだ。その点、私は関心をもってこの辞典の京都の個所を開いてみた。すると、案の定だった。「面と向かっての悪態は京都市内であまり発達していない」と書かれていた。そもそも罵倒語が少なく、どうしても威嚇しなければならないときには、大阪の言葉を借りる、などとも記されている。
 県毎に取り上げられた後、本書の後半では、語彙について県別に並べられている。例えば「けち」という語について、宮城は「すわっぴり」、群馬で「しみったれ」、富山で「こっすい」、愛知から関西で「しぶちん」、福岡は「どけち」、鹿児島になると「けっごろ」「よっごろ」などがあり、沖縄でつい「いびらー」ともはや理解不能になっていく。
 まあとにかく楽しい。やめられない。手に取れば、とりこになる。そして、こうした罵詈雑言は、口に出してみたくもなる。この本を音読してみるとよい。たぶん、自分の出身地の言葉の欄を開いて読んでみるのが一番だ。実にすかっとする。
 そこで福岡県のケンカの例文で締めてみる。
「なんばこーかっとーとか、きさん。ぼてくりこかさるーぞ」「なんてか。なんばしきるてか。ばーかが」「なんがばかてか、きさーま。なんごとこきよーとか」「しゃーしか」  あー、すーっとした。




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