本

『知っていますか?アイヌ民族一問一答・新版』

ホンとの本

『知っていますか?アイヌ民族一問一答・新版』
上村英明
解放出版社
\1260
2008.1

 1993年に一度出版されたテーマのものを、その後の社会の変化も含めて考慮し、新たに書き下ろされたものだという。
 私は南の地方に住む者として、北の国のことは実感がない。精一杯の想像をしても、それが現地の人の苦しみにどれほど近づくことができるかというと、甚だ怪しい。灯油の高騰でどれほど辛い生活に陥るか、やっぱり分からないのである。
 それはそうとして、個人的に、民族が違うなどと言われても、さほど線引きをする気持ちは起こらない私である。そもそも日本が単一民族だなどと考える気も起こらないし、とくに生活文化に共通するものをもっている人は、たとえ見かけが違おうともべつだん違和感を覚えないタイプである。
 それでも、私の中に、何か排除するものがきっとあるのだろう、という気がする。
 だのに、江戸時代から、とくに明治期以降、日本政府がアイヌ民族に対してどんなことをしてきたか、この本から改めて知ることができた。漠然と、ひどいことをされたという印象はあったものの、具体的に何がどうであったか、を教えてくれる意義は大きい。その具体的な歴史こそが、人の痛みであるからだ。その痛みも、想像するくらいしか参与できないのであるが、私の貧しい想像力でも、それがどんなに辛いことであり理不尽なことであるのか、少し理解できたつもりになることができた。
 ふと、手塚治虫のマンガのテーマの一つを思い出した。それは、見かけが違う者に対する不当な差別を乗りこえるのは何か、というテーマである。人気者のアトムですら、その疎外感がスタートとなっているのである。なんらかの理由で社会的に高い立場にある者は、ただそれだけの理由で、社会正義を定める権利を得、声の出せない弱者を虐げる権力をもち、弄ぶようにすらなってゆく。手塚は、それに対する弱者の叫びを響かせようとペンに力を入れていた側面がある。
 沖縄もまた、ヤマトから虐げられた歴史をもつ。しかしまた、その沖縄の人までが、アイヌの人を差別していた事実も、この本から学んだ。人は、どんな状況からでも、誰かを見下して生きたいものらしい。これは、沖縄の人が悪いのではない。彼らもまた、大和民族から利用されてきたのである。
 沖縄は、それなりに観光や音楽やドラマなどで、親しまれてきている。それに対して、アイヌの場合は、まだまだである。しかし、こうした本をきっかけにして、ポピュラーに知られるようになる道が拓かれたらいいのに、と思う。




Takapan
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