本

『生命はいつ、どこで、どのように生まれたのか』

ホンとの本

『生命はいつ、どこで、どのように生まれたのか』
山岸明彦
集英社インターナショナル
\1100+
2015.9.

 アストロバイオロジー。それがこの本の主題である。生命を、宇宙を舞台に捉えようとするものである。内容は、決して簡単なものではないが、著者はずいぶんと読者のことを考え、この視点を理解してもらおうと努めているように感じられる。また、それはほぼ成功しているのではないかと感じる。
 宇宙生物学。日本語では、このように言えばよいだろう。生命学と呼んでもよいように私は思ったが、専門家の考えがあるのだと思う。生命となると、また何かもっと壮大な探究が必要になるようでもある。しかし、そもそも生命とは何か、生命の誕生はどうであったか、改めて宇宙という次元から捉えようとすると、私たちのイメージがとかく狭い地球上だけのこととして考えあぐねていくものを、全宇宙の原理から捉えるという、考えてみれば当たり前のことを成し遂げていくことになるのだろう。そもそも宇宙にある元素、そこから生命はどのようにして発生する可能性があったのか。
 火星というと、宇宙人の原形のような思いもする。しかし、それはお伽話だと誰もが思っている。そこへ、このアストロバイオロジーは、冷静に捉える。太陽系で生命存在の可能性が最も高いのは、火星である、と。もちろん、それは知的生命体を言うのではない。有機体の延長としての生命である。その説明、データの提示が実にわくわくさせる。また、木星の衛生エウロパの名が出ると、私などは興奮してしまう。映画、2001年宇宙の旅、の舞台だからだ。しかし、著者はそのことには触れない。禁欲的とも言えるほど、そうした空想物語にはページを割かない。あくまでも、これは科学の本であるのだ。科学を分かりやすく伝えることは目標であるが、そのために文化的な現象に迎合はしないという態度が見て取れる。確かに、ここに示されるデータには、そういう息抜きが入る余地はない。それでいい。
 やがて、視点は宇宙全体へ向かう。私たちは、地球外で、生命と出会うことができるだろうか。根拠の無い確信ではない。また、そんなもの無理だという、これまた根拠のない諦めでもない。あくまでも科学的に、可能性を分析する。その意味で、やはり純粋に生命について情報が欲しいと思う読者には、またとない良書となっている。へたに感情は入らない。だが、だからこそ、内容に信頼性があると言える。
 学校の知識があれば、読める。時に、生物で学んだことが復唱させられるように現れ、自分の持つささやかな知識と連動していけるように配慮もしてある。感覚的には、高校の生物学で十分だと感じた。その意味で、できるかぎり客観的に、宇宙の生命を考えてみたい場合に、適切なガイドとなることは間違いない。SF的物語は、そこから読者が自由に始めればよいのである。




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