本

『プロゴルファー 石川遼』

ホンとの本

『プロゴルファー 石川遼』
井上兼行
学習研究社
\1260
2009.8

 スポーツ・ノンフィクションとして、小学生にでも読み通せるように作られた本である。すべて振り仮名が打ってある。サブタイトルに「夢をかなえる道 急がば回るな」とある。もちろん、「急がば回れ」のバリエーションである。これは、石川遼選手がプロになる決意をしたとき、自分の道標として浮かび上がってきた言葉なのだという。124頁から記されているそこは、この本の一つの要である。ともすれば同じような大会の実況のようなレポートが多くなる中で、考え方や生き方の指針をはっきり据えて見せている箇所だからである。
 石川遼選手は、この本が出版された時点で高校三年生。マスターズ出場という夢のようなことを成し遂げたし、そもそも高校一年生にしてプロに転向したこと自体が、驚異の的であった。今や彼の名を知らない人はいない。ゴルフファンのみならず、日本のメディアがその一言一プレイに注目しているスター選手である。
 飾らず奢らないその性格や言動も、好感をもたれる要因である。まさに、子どもたちの模範としても見事に役立っている。そこで、この学研の殆ど偉人のような扱いを受けるノンフィクションのシリーズに、まだプロになって間もない身でありながら、登場するに至ったのであろう。また、それだけの価値のある活躍をしているのも事実である。
 彼を応援する人は多々あっても、彼を非難する人は殆どいないだろう。そして、この本を読んでいて私など、電車の中で涙してしまうことが幾度もあったのだが、何か人の心にぐっとくるものをもっている選手ではないかと思う。それは、純粋で健気な気持ちで活躍する、そしてその仲間たちに助けられ失敗を重ねながら、周囲の人をも変えていくような力をもつ、アニメの主人公を見るような気がするからではないだろうか。地味かもしれないが、今なら「ねぎぼうずのあさたろう」のような、泥臭いがよく見ていくと純で一途な主人公のアニメがあり、それと通ずるものを感じさせてくれるのである。
 つまり、私たちがどこかで理想としていながら、柵その他でなかなかそのようにはいかない、真っ直ぐな生き方というのがそこにあり、それを具現しているように、石川選手のことが目に映るのである。
 まだまだ彼の挑戦は始まったばかりである。小学校の卒業文集に記した「二十歳でマスターズ優勝」という目標が、奇想天外な夢にすら思えないほどに、彼はすでに着実に夢のような出来事を重ね続けているのであるが、その年齢の向こう側にも、彼の歩みが刻まれていくことになる。今度はもはや少年とも青年とも呼ばれ得ない中でのゴルフ人生が作られていくのだろうが、その時もなお、ピュアな眼差しでいてくれるのではないか、と私たちはイメージしてしまう。そういうことが、また大人になった彼を苦しめていくことにもなるのだろうが、やっぱりそういう期待をかけてしまう。
 大人の心配をそのようにしてしまうのだが、そんなことを杞憂にしてくれるほどに、今の石川選手は輝いている。そして、彼に続くような少年たちの熱い眼差しが、世界中にあふれている。それが子どもたちの希望であり、生きる力となる。一人の大人として、私はそういう夢を応援していきたいと思う。それは、たんに金でもないし、口先だけの声かけでもない。ピュアでよいのだという生き方を挫折させない世の中にしていくことであり、そういう生き方を大人たちも実行することなのだ。
 話はどんどん私の世界で膨らんでいってしまったが、いつも言うように、子ども向けの本は、大人も読める。そこで得ることは、決して小さくはない。私たちもまた、少年時代の眼差しを、まだ殺してしまってはいないはずだ。




Takapan
ホンとの本にもどります たかぱんワイドのトップページにもどります






 
inserted by FC2 system