本

『沖縄戦全記録』

ホンとの本

『沖縄戦全記録』
NHKスペシャル取材班
新日本出版社
\1800+
2016.5.

 テレビで放送されてから一年を経て、満を持しての出版となったが、それだけ大変な編集がなされていたということなのかもしれない。放送は取材のごく一部しか出せないため、そこで伝えきれなかったこと、諸事情で出せなかった情報や記事がまとめられていると考えてよいのではないかと思っている。
 映像の訴えも力があるが、言葉にも、それに劣らぬ力がある。この取材は、もう今後生き証人に触れあうことが殆ど期待できないのではないかと思われる中での、必死の探究でもあった。当時の記憶のある人々でさえ危ういのに、当時成人であった関係者となると、さらに可能性が低くなっているのが現状である。それを丹念に調査し、近づいた。たとえ出会えても、取材を許してもらえるかどうかも分からない。言いたくないこともあるし、思い出したくもないことでもあろう。それを根気強く探った取材の方々の苦労が偲ばれる。
 とはいえ、当時地獄の苦しみを味わい、存命であるという方々の苦しみに比べれば、取材するくらいはどうということのないことなのかもしれない。
 沖縄戦については、私は子どもの時代には知ることがなかった。つまり歴史で学んだ記憶がなかった。成人してから知るようになり、これはどういうことだという思いで、貪るように調べた。新婚旅行では沖縄を選び、戦跡を訪ねた。沖縄で、沖縄の新聞社などの出版している、沖縄戦の本を買い漁った。その結果、一定の知識を得るようになった。
 このNHKスペシャルの本は、そんな私の知りたかったことの集大成のような役割を果たしている。いや「全記録」という文字がついているものの、ここには史料が掲載されているわけではない。いうなれば、取材で出会った人々の証言集である。ただ、私が初めて見たのは、死者がいつ・どこで亡くなったかについての膨大なデータを視覚的に表現して見せたグラフである。言葉で聞く印象とは違い、歴然として、どの出来事によるどこで戦いが行われていたのか、被害者が何によって増えたのか、一目で理解できるようになっている。もちろん、死者を数字で読み解くなどということは、甚だ不謹慎である。しかし、軍がどんな判断をしたか、それがどんな被害を与えたのか、一つの説得力のある資料となることは確かである。
 証言を生々しくただ載せるという方法もあるだろう。本書は、取材班の視点で終始まとめられている。それは言葉の力を少し減じさせているという点は否めない。しかし、一冊の本としての流れは整っていて、読みやすい。手にとって読むにあたっては、親切な構成となっている。だが今言ったように、それは取材班の視座からの流れである。やむをえないところではあるが、外から見た場合の沖縄戦の意味と、その修羅場にいて、おそらく偶々のようにして死なずに生き残った方々にとっての沖縄戦の意味とのずれについては、よくよく弁えておく必要があるだろう。ウチナーの立場ではなく、ヤマトの立場から語る沖縄戦であるという観点をわずかたりとも見逃すことなく、ヤマトンチュが何をしてきたかを前提として、沖縄と向き合い、出会わなければならない。中央政治が沖縄に対して、向き合っているようには思えない時代だからこそ、このような企画を、あらゆる沖縄の問題の前提として、役立てるものとしなければならないであろう。




Takapan
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