本

『修学旅行のための沖縄案内』

ホンとの本

『修学旅行のための沖縄案内』
大城将保・目崎茂和
高文研
\1155
2006.11.

 沖縄を修学旅行先に選び中学・高校は、全国に2000を越えるほどあるという。もちろんたいていは、行く先について学び、調べてから行くものであろうから、全国的に沖縄のことを知ろうという動きは少なからずあるということは当然予想できる。
 そこで、その観光のために本を作れば売れるだろう、という計算も、当然あってよいものだが、この本は、そんなところに照準を置いているのではないはずだ。
 沖縄について知ってほしい、という思いはもちろんあるだろう。まず自然について認識してもらい、次に沖縄や琉球の歴史を伝えることを、オーソドックスに、この本は行っている。しかしこの歴史は、あるときを境に、語るペースを急激に遅くする。最初の30頁で自然と、明治までの沖縄を知らせた後、次の30頁を、ひたすら沖縄戦に費やすのだ。さらに次の15頁が戦後の占領と基地の沖縄を伝え、こうした最近の歴史を踏まえた形で沖縄の文化と経済を知らせるために、最後の15頁を使うという具合になっている。実に多くの頁が、沖縄戦とそれ以後を中高生に伝えるために割かれているのだ。編者の心は、実にそこにある。沖縄戦についての本をいくつも作り、伝えようと努めてきた方は、このたび、修学旅行生に分かりやすくそれを伝えようとした。すると、これは中高生ばかりでなく、実のところ大人たちにとっても実に分かりやすい沖縄理解を促すものともなることができた。その意味では、修学旅行生だけしか読む必要がないようなタイトルは、半ば失敗である。しかし、確実に学生たちに知ってもらうためには、大成功であろう。だから、その上で私は、この本を、大人たちに強くお勧めしたいのである。
 沖縄戦については、私はかつてかなり調べたことがある。沖縄というところがどういうところであるのか、私自身、大人になるまでよく知らなかった。そのことが、残念でならなかった。そのくらい、沖縄とはどういうところであるのか、知らされていなかったという実情もある。リゾート地だという程度の知識でいることは、日本人として許されないと言ってもよいような背景があるわけだ。つまり、かつてもそうであったし、今もなお、沖縄に対してヤマトの自分は加害者である、という意識をもたないことは、無責任極まりないことのように、私は思えてならない。するとまた、そういう心を、自虐だ、と指さす輩もまた大勢いることになる。なんでも、自分に責任がある、と思う心をすべて自虐だと軽蔑する精神が、この国にはうようよしている。そして、できればこの国の空気をそれで染め上げたいと考えている。
 沖縄についてこの本にあるような内容を考える人は、そうしたものとも戦っている。その内容については、どうかこのすばらしいまとめの本によって、ご覧戴きたい。私のような者が、とやかくごちゃごちゃ言う立場にはない。中高生が目にするには少々酷い写真もあるが、全体的に美しく、また必要に応じた写真が並べられている。項目もひとつひとつが一頁または二頁という形で見易くなっている。私も知らないようなことが挙げられている場面も多く、有益な学びとなるのであった。
 このような知識をもつことは、有意義である。無知は自分の安心であるかもしれないが、人を愛するには、人の痛みを知ることがスタートにある。その場合は、無知は褒められることではなさそうだ。ほんとうに、よくまとめられている。分かりやすく説かれている。修学旅行と関係ない立場の人も、分かりやすく、きっと損はない。こうした背景を頭に置いてこそ、沖縄なり基地なりのニュースを、見聞きすべきなのだ。でないと、ニュースもただ「ふうん」で終わるだけのものでしかない。




Takapan
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