本

『酸素の物語』

ホンとの本

『酸素の物語』
カレン・フィッツジェラルド
竹内敬人監修・原田佐和子訳
大月書店
\1890
2006.6

 化学の物語というシリーズの第一。化学の深い歴史と洞察について、こんなに易しい言葉で、こんなに簡潔に語られることがあっただろうか、と驚かされる。
 難解な言葉を並べて書くのはたやすいという。むしろ、子どもにも分かるようなボキャブラリーで分かりやすく説明することは至難の業であるともいう。だから、哲学書などでも、訳の分からないことばかり書いてあるのは、本当は書いた人もよく分かっていないと判断せよ、という基本がある。訳書でも、分かりにくい訳は、拙い訳なのである。
 易しい言葉で、深い真理を伝える。考えてみれば、イエス・キリストもまた、それの代表であった。
 ここにある、化学の歴史は、易しく語られ、しかも決して妥協しない内容となっている。人類が、いかに思い誤ったかという点も、的確に語られている。この酸素に関していえば、フロギストン説がそうである。燃える物質を仮説として立ててそれに囚われた人々の思考が、明確に述べられている。
 科学の世界では、エーテルという存在も思い起こさせる。
 今なお、何か真実であるかのように挙げられているものについても、いずれ、私たちが誤りに毒されていたと評価される時代が訪れるのかもしれない。
 歴史を学ぶとは、そういうことでなければならないだろう。
 大月書店も、昨今厳しい経営ではないかと案じていたが、よい教育書の分野が拓かれていた。科学の良書、とくに子どもたちに読めるものを開発するというのは、よいことだ。特色を活かして、こうした科学分野においても、まだ活躍してほしい書店ではある。




Takapan
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