本

『Newton別冊 図形に強くなる』

ホンとの本

『Newton別冊 図形に強くなる』
ニュートンプレス
\2415
2010.8.

 このシリーズ、取り上げ始めるときりがない。
 編集する人々は、きっと楽しいだろうなあ、といつも羨ましく思っている。
 科学の知識を、できるだけ図解し、写真を掲載し、分かりやすくまとめて示す仕事である。それはしばしば、最先端の話題を含んでいるから、必ずしも学習参考書というわけではないが、学習的な要素も多々あるから、中高生あたりに理科や数学を教えることを経験した者は、編集に参加するだけの資格をもつといえる。その上で、新聞やニュースで少しでも話題になったものを選んでタイトルに関わらせると、感心を呼ぶことが多いと思われ、それなりに売り上げにつながっていくことだろう。
 そう簡単に売り上げが伸びるのかどうかは定かでないにしても、これだけどこの書店にも見られるということは、それなりに一種の雑誌または教養誌としての役割は果たしているのではないだろうか。
 さて、前置きはもういいとして、この本、図書館から借りてきたのだが、たしかにこの価格は個人的に買うとすれば痛い。学生時代、よく買っていたものと思う。今回、小学生にも通用する理論があることで、私の仕事に参考になるかもという小さな期待をもって手に取った。たいていのことはさすがに商売上、既知のことではあったにしても、全部が全部知り尽くしていたわけではない。細かな理論上の基礎づけとしては、実に役に立つ内容であったと拍手を送りたい。曖昧に、こういうものだから、と理解しているところは、正直あるものだ。しかしこの本には、ごまかしなく、数式まできちんと載せられている。これは助かる。
 冒頭の定義と作図は、まさに中学一年生の初冬に学ぶ内容である。面積や多面体は、小学生でも理解の必要なところが多い。それから、円と球の話題に入るが、ここで、神秘のあのπに話が移る。しかし、まずはπそのものよりも、求積問題からだ。その公式の理論は、決して簡単ではない。微積分を使わないで球の体積や表面積の根拠を伝えるというのは、実は中学生における一つの重要な動機となるのであるが、それをこの本が見事にこなして提供してくれている。これがうれしい。それもカラー図で丁寧に、これ以上ないくらいに丁寧に説明されている。中学生でも数学の好きな子なら理解可能である。
 そうしていよいよπそのもの。どうぞ興味のもてる方はごゆっくりお楽しみ戴きたい。πについての歴史を語ろうというよりは、πという数そのものについて、たくさんのことを教えてくれる。続いて、フィボナッチ数を交えながら、いわゆる黄金比にまつわる数、φの登場である。この自然の原理ともなっているといわれる数を、これまた巧みに美しく明かしてくれるのが、また清々しい。
 最後に、折り紙で正多角形を折るという試みが図解され、また図形の切り取りパズル、ルーローの三角形といった、話題になりうる図形とそれへのアプローチが並べられていく。メビウスの帯も、単純な説明ではない。最近の話題を取り入れて、楽しく読ませてくれる。ラストはエッシャーのだまし絵を立体で製作するということを見せてびっくりさせてくれるが、実はこれは私が最近、これについてのエキスパートの本『だまし絵のトリック』(杉原厚吉著)を読んでいたからすんなり納得できるところであるかもしれず、このNewtonだけの説明では、あまりにもページ数が少なくて、分かりやすいとは言えなかったのではないかと懸念する。
 個人的には、この折り紙のところが気に入っている。折り方が丁寧に示してあるのと、その理屈や最大性など、必要なところを簡潔に押さえて教えてくれている。もちろん、もっと折り紙に凝っていくことや、その計算式による証明など、求めれば限りなく説明を要求することもできるが、この本の一部としての性格からすれば、十分と見るべきであろう。
 こういうわけで、数学に興味のある方は、あるいは子どもたちに塾で教える方にとっては、ひとつ見ておいて損のない本ではあるだろう。私は、四角錐の体積の求め方のところが、子どもたちに説明する上でヒントになるところが大きかった。
 いろいろ刺激を受けるという意味でも、役立つ一冊と言えるだろう。




Takapan
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