本

『長崎と天草の教会を旅して』

ホンとの本

『長崎と天草の教会を旅して』
繁延あづさ
マイナビ出版
\1680+
2017.1.

 教会のある集落とキリシタン史跡。小さな字で、タイトルの横に書かれている。良い旅がなされたのだと思う。ロマンを求める心からか、歴史に関心があるのか。人それぞれに感じるものは違っても、そこにあるのは歴然と佇む教会たち。
 しかし、なぜそれがそこにできたのか、どのようにして建てたのか、それを知ることなく、この旅を続けることはできないだろう。
 その意味で、キリスト教伝来から始め、キリシタンの歴史がきちんと最初に説かれていることは、当然ではあるが、企画としてもきちんとしている印象を与える。だが、そこに迫害と殉教の詳細については触れようとしていない。禁教から突然に、明治の高札撤廃に向かう印象を与える。その中で「崩れ」と呼ばれる弾圧が続いたが、やがて地域の教会建設が始まる。これでようやく、この本の目的のひとつである教会堂がどうやって建てられたか、の説明がなされることになる。
 訪問のマナーについても書かれており、実際に訪ねるということがこの本の導きであると共に、礼拝の場所であるという元来の意味を尊重すべきことを読書に釘刺している。これも当然ではあるが、ここはやはり大切な前置きであろうと思われる。
 交通アクセスも、重要な情報である。その地域のもつ背景、歴史、すべてが、旅に必要な理解となる。
 こうして旅は続けられ、長崎から五島、平戸を経て島原と天草に至る。美しい写真はもとより、解説なのかつぶやきなのか分からないほどに自然な口調で、多くの情報が語られていく。その文章が美しい。ふと思ったが、ある程度知識をもつ私の場合に心地よいということは、さて、初めてキリシタンの歴史を知るような読書にとってはどうなのだろうか。そう思って見れば、なかなか一定の知識や理解を前提としてどんどん話が進んでいくようにも見える。初心者のための基本的な解説というものが殆ど見当たらない。あるのは、巻末に用語解説集くらいである。その意味では、ここで旅行案内をしているわけではない、というふうに捉えてみるべきであろう。
 巻末には長崎のお店がほんの少しだが、恐らく筆者のお気に入りとして示されている。また、長崎の教会を理解するための本が、手に取りやすいいくつかの分野から紹介されている。遠藤周作の『沈黙』を筆頭に、フロイスの『ヨーロッパ文化と日本文化』、鉄川与助のことや、『坂道のアポロン』まで、わずかなスペースによくぞこれほど多彩な角度から教えてくれると感心するほどの内容がこめられていて、私はうれしく思った。
 終わりのほうにある、崎津教会の神父のインタビューも、短いものだが心に残る。爽やかな本が、できあがった。




Takapan
ホンとの本にもどります たかぱんワイドのトップページにもどります






 
inserted by FC2 system