本

『新約聖書の本文研究』

ホンとの本

『新約聖書の本文研究』
ブルース・M・メツガー
橋本滋雄男訳
聖文舎
\6000
1973.3.

 読書たるもの、良い本に出会い、楽しんでいる中で、他の本を褒めている箇所を見ると、きっとその本も良い本に違いない、と思うようになってくるから不思議である。こうして読書の輪が拡がっていく。自分が気に入った本で紹介されているのであれば、確かに波長が合うというか、また良い出会いが与えられるというものである。しかも、複数の本から、同じ本が薦められているとなると、これはもうただごとではない。ぜひそれも知らなければ、と焦る気持ちさえ生まれる。こうして私が知ったのが、このメツガーの本である。
 学術的なものであり、その資料的な役割ないし本文批評の記述は、一般的なものでないとは思われるが、私には望むところである。もちろん、数十年を経て、学問的な価値は下がっているかもしれない。しかし、ここに説かれた新約聖書研究のノウハウは、他ではなかなか見られないものである。とにかく基本的なところ、文献の事細かな解説が網羅されていて、その点ではこの年月は基本的に変わらないものと思われる。学ぶのにはもうお釣りがきて当然の内容であり、たくさんのことを学ばせて戴いた。
 写本の一つひとつの由来から内容、またいわゆる「誤り」がどのようにして生まれるかという、写本検討の上での重大な観点が詳しく実例を挙げつつ紹介されている。文献学とはかくあるものなのだ、という現場を覗かせてもらったような気がした。巻頭には白黒写真だが、実際の文献をも見せてもらい、本文の記述がいきいきとまた理解できるように配慮がなされている。
 批評史も網羅されているから、とにかくこれ一冊あれば、新約聖書の研究について分からないことはないというほどのものとなっている。私は古書で、質のよいものを格安で見出したのですぐさま手に入れたが、当時で6000円というのはずいぶんと高価な本であったことだろう。しかしそれだけの価値も確かにあるものだ。そして、多くの研究者や説教者がこの本を挙げて薦めることも、引用文献として頻繁に見るのも、肯ける。往年の簡素なデザインとうす茶色の箱、そしてパラフィン紙のカバーなど、懐かしくて仕方のないような装丁でもある。古書としての評価は「可」であったものの、それは年月を経ての劣化によるものでしかなく、本としては非常に美しいものであり、満足している。
 本書では最後に、それでも新約聖書は固定的なものではなく、これからまた研究が進展するであろうことを訳者が告げているが、そのための道標として、本書はしばらくはまだ古びそうにない。それに、膨大な注釈が本書に具わっているために、ここからまた良書を探す楽しみもできる。当然そのは、刊行時以前の本となるのだけれども。




Takapan
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