本

『新世界に学ぶ 新島襄の青春』

ホンとの本

『新世界に学ぶ 新島襄の青春』
福本武久
ちくま少年図書館93
\1236
1985.8.

 古い本であるため、価格は当てにならないし、今も販売されているのかさえ分からない。図書館で新島襄について探したら、こういう本に出会ったというわけだ。中学生以下でも十分読めるように配慮されているが、果たして昨今の中学生は、このくらいのものが読めるのかどうか。本の好きなグループと、全く読まないグループとが分かれているだけに、少年少女向けの図書出版の苦境が偲ばれる。
 どうして新島襄なのか。それは、NHK大河ドラマで彼の妻、八重を取り上げることが発表されたからだ。だからこの八重についての本はないか、と探してみた。目立ったものとしては『新島襄とその妻』という本があった。が、実物は販売されていないし、図書館にもないらしい。
 その本と同じ著者による新島襄の伝記がこれである。だからスピリットは違うことはないだろう。とはいえ、ここには少年向けの建前らしく、少年から青年にかけての新島襄のことが描かれている。子ども時分のことが多い。読者層を考えるとそうなるだろう。八重のことなど、後に山本覚馬のついでにその妹として一言書かれるだけである。その意味では当初の目的は達成できなかったが、新島襄その人の性分や青年期の行動については、読みやすくて大きく得るところがあった。
 もとより、どこまで史実であるのかどうかは分からない。ただ、その道の専門家として著者は、同志社をはじめ各種の資料を頼りに新島襄の人生を描いている。脚色はあろうかと思うが、事実をあまりに外れたことが並んでいるようには思えない。
 エピローグでも触れられているが、彼の人生を好運のうちに導いていったのは、彼の燃えるような眼差しであった。この目と真摯な姿勢が周囲の人々の心を動かした。最後には、大学を建てるという途方もない願いのために多くの人から寄付を得たくだりがある。そこでは、やもめの銅貨のような物語が実際にあったということが書かれているが、まるっきりなかったことではあるまい。
 蘭学がしたくて仕事を抜けだしたり、英語の学びに一途になっていくところ、もちろん密航に等しい国外脱出を図るなど、とんでもないことをもしでかしているのだが、国を愛する心がずっと底辺に流れていることがよく描かれている。国を愛するとなると、神社を拝み天皇を神と呼ぶようなことでなければならないと勘違いしている人もいるが、そんなことではないということが、この本を読めば誰にでも分かる。新島襄は日本を愛し、そのためにアメリカに帰化もせず、帰国して教育を志した。同志社大学を実際にその目で見ることはなかったのだろうが、彼の精神は今に生きている。神を拝することが、どんなに国を愛することとなるものであるか、多くの方に知って戴きたいものだと思う。
 あまりにも無茶をやることが許された身分ある家だったわけで、現代の誰もが真似できるわけでけはないし、真似をすることも勧めない。生活の苦労をすることもなかったわけで、非常に恵まれた人生であったこともよく伝わってくるが、理を通そうとして毅然と振る舞うところや、一度決めたら頑として受け付けないところなど、新島襄の個性もあるだろうが、読んでどきどきしたり爽快感を覚えたりするのだった。このように実在の人物について、史料をもとにきっちり伝えようとしてくれる人がいることはありがたい。そしてこうした人物の歩みを知ることも、私たちの人生を豊かにするだろう。私のように、NHK絡みで新島襄について知りたくなる人も少なくないだろう。いろいろ人に知られることはよいことだ。キリスト者としての働きをぜひとも上手に伝えてもらいたい。ドラマのほうでもそんな淡い期待を抱いている。




Takapan
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