本

『メソポタミア文明の光芒』

ホンとの本

『メソポタミア文明の光芒』
平山郁夫シルクロード美術館・古代オリエント博物館編
月本昭男監修
山川出版社
\1699
2011.10.

 歴史書の権威でもある、山川出版社が古代を語る。副題は「楔形文字が語る王と神々の世界」となっている。とはいえ、その方面での資料を余すところなく紹介した、というよりも、ここは編集した二つの博物館が所有している、その方面の資料を整理して紹介した、と理解すべきである。従って、これらの博物館を訪ねたつもり、あるいはそれらの展示会のカタログを見ているつもり、というくらいの気持ちがちょうどよいのではないだろうか。
 だがまた、なかなかある方面について充実したコレクションともなっている。見応えがあるのは間違いない。
 印章や魔除けの数々の写真にまず驚く。その後、この本は、当時の「契約」という側面に光を当てて説いていく。つまりこれはただの資料集ではない。確かに美しい写真が目録よろしく立派な紙に並んでいるのだが、そこに多く並んでいるのは、契約社会を彷彿とさせるものなのだ。遺る遺跡には、楔形文字の粘土板が多いとする。それを解読して分かったのは、当時の契約社会の様子であった。そもそも一般民衆が文字を使えるわけではないのだから、貴重な粘土板を何のための文字として使うかというと、証拠としての契約内容の記録であったことになる。特権階級だけが使える文字、そして粘土板。そこには、特権階級が支配するために有利になるような証拠が刻みこまれている。まさに、それは刻まれているのだ。
 そうなると、印章もまた、その類のものの一つであるということになる。
 そして、それに関係するという意味で、神々の紹介が始まることになる。
 まことによくできた構成だ。
 王たちの資料が置かれ、そしてようやく庶民の生活を知らせる物品の頁が始まる。庶民とはいえ、それは武具であり、また祭儀である。そうしたものしか遺らない。装飾品や器もあるが、どうにも金持ちのもの、あるいは祭儀用らしい。
 最後に、この楔形文字がアルファベットに取って代わられていく歴史の行く末を見つめつつ、この本は閉じられる。高い資料性を思えば安いと思えるかもしれない。そして、メソポタミア文明についての、視覚的な理解という意味でも、なかなか趣のある本となっている。薄いことが逆に、手軽に手に取れるものだとすれば、学生が手にしておくにも無理のない本であると言えないだろうか。あるいはまた、旧約聖書の理解においても、これは役立つ可能性が高い。監修者は、その旧約考古学の権威である。近頃あちこちに名前を貸しすぎるきらいはあるが、やはり任せておけば間違いがないという知識と目をもっている方であるわけで、活躍中である。
 特別に聖書に傾いて解説されているわけでもないから、その方面でこだわりを持つ人も安心して手にされたいと思う。
 私はおおまかな見方として、古代が劣っているという見方を基本的にしない。単に私たちの目に触れるものが遺っていない、あるいは限られているだけの話であって、大いに文化や文明は進んでいたものと思いたい。当時の契約は、実に厳しかったものと推察している。今のような人権思想に基づいていない分、むしろ契約というものが生活の根本であったのではないかとすら思う。今私たちが重んじる人権というくらいに、契約というものが根底にあったのかもしれない、と。そうでなければ、ユダヤ人の精神と生命を支配した旧約聖書のような文化は成立しなかったであろう。
 その意味でも、この楔形文字による契約社会の説明には、興味深いものがあると言えようものだ。




Takapan
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