本

『メンデル 遺伝の秘密を探して』

ホンとの本

『メンデル 遺伝の秘密を探して』
エドワード・イーデルソン
西田美緒子訳
大月書店
\1890
2008.4

 厚い表紙だが本は薄い。しかし、その薄さの中にメンデルという科学者の評価を閉じこめるとなるとこれは難儀だ。それを容易にやってしまったというところに、このシリーズの意味があるのかもしれない。
 メンデルの場合、その研究が地味に隠れていたこと、しかしその成果が後日知られていくであろうと本人が確信していたこと、メンデルという人がキリスト教の修道院長という立場にあったこと、そしてまた、後にその美しすぎるデータが捏造と疑われたこと、このように私たちの関心を誘うポイントがいくつもある。さらにまた、その遺伝についての探究は、現代のDNA研究の嚆矢とされている点でも、大きな意義をもつものと理解されている。
 この本は、そうした点を的確に辿る。たんに伝記を経年的に綴るだけでもないし、論文の解説をするだけでもない。その人間性や生い立ちなども余すところなく描き伝えてくれる。時折コラム的に、理解を深める解説を施し、読者を飽きさせないように配慮してある。
 このようにしてみると、非常に地味なシリーズであるし、地味な書き方であるような本ではあるが、なかなか工夫が凝らしてあると見ることができる。それで、やはり見るべき人からは評価されているようなのだ。
 まだそれほど沢山の科学者のシリーズが出来上がっているわけではなく、年に6冊ずつの予定で刊行されていくものだと紹介されている。「オックスフォード 科学の肖像」というのがシリーズ名である。オックスフォードの名前を出すほどであるから、その辺りも権威を保ちつつ、なおかつ親しみやすい内容と広い読者層を呼び込むだけのすそ野の広さをもっているように思われる。編集者もライターも、必ずしもオックスフォードという訳ではないが、それだけの価値はあるもののように見える。
 科学の本である。索引が備えられている点もいい。ただ、庶民の感覚から言えば、値段が割高に感じられ、買う手が伸びにくい。仕方がないのかもしれないが、半額近くにまで値が落ちると、売り上げは伸びるのではないかと思われる。余計なことなのだろうけれども。




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