本

『イエスとの初めての再会』

ホンとの本

『イエスとの初めての再会』
マーカス・ボーグ
西垣二一・三ツ本武仁訳
新教出版社
\2500+
2011.2.

 第三の探究と呼ばれるイエスについての研究集団がある。もちろん現実の集団ではなく、思想的に共通項をもつ神学者などの総称である。つまりはいま現在活躍中で注目されている考え方、神学界をリードしている人々ということである。2016年に亡くなったのだが、アメリカの学者で、広く知られているのではないかもしれないが、邦訳書がわりと多いのがこのボーグである。
 現代人に、信仰がどのように受け容れられるだろうか、という視点から、ここでは聖書研究云々というよりも、信仰生活を築いていく人間精神の歩みを導くために本が作られている。「史的イエスと現代的信仰の核心」というサブタイトルは、本書の内容を的確に表現していると言える。
 著者自身、信仰に疑問をもちつつ育ち、成長した後に神との出会いを体験している。この事情は、日本においては、仏教者を想像したほうが分かりやすい。そもそも仏教というのが当たり前すぎて、なんとなくその空気に染まるのであれば気が楽なのは楽なのだが、ひとたびそれを信仰せよと言われた場合、何をどう信仰するのか、ピンとこない。それでも一定の学びはできるし行事には参加できる。ただ、個人的な信心がそこにあるわけではない。むしろ、よく考えてみたらこんな考えが信じられるわけがない、とも思える。じゃあひとつ仏教の経をいろいろ調べてみたらどうか。その通り信じるわけにはゆかないが、自分の心にフィットする部分は確かにある……といった精神的な旅を経験するかもしれない。
 本書は、これがイエスについてなされたという具合に捉えるとだいたい素直に読めると思う。このことを、どこか象徴的に「イエスとの再会」と著者は表現する。
 そのイエスとはどのような方であったのか。聖書を頼りに、また歴史的にもいったい事実はどうなのかという点から、冷静に調べていく。しかし、そもそもその「事実」とは何を言うのであろうか。その規定が、実はまた近代的な思想環境による前提がある、などという問題があるのだが、そこで聖書の真理とは何かという点を議論するよりも、人の信仰生活にとり何が大切であるのか、という点を進めていくのが本書の特質である。私たちはイエスに何を学ぶべきか。現代に生きる私たちが、現代に影響するキリストの姿を知ろうとする。そのようなイエスに、私たちはいま改めて出会う。その出会いは、全く知らない人に初めて出会うのではない。かねてからそこにいた。むしろある意味では分かっているとも、と胡散臭くなるほどに、当たり前の存在として実はそこにいた。ある意味で、出会っていたというのは間違いないのだ。しかし、この「出会い」という言葉には、自分が変えられる出来事という隠れた意味がある。たんにお目にかかりました、というのではない。そこで人格的な出会いがなされ、自分が影響を受け、新たな発見があったり、自分が変えられることを経験する。日本語でも「出会い」という言葉には、そのような過程が隠れていることがある。まさに、イエスとの出会いは、そのような経験が、必ず含まれるものである。人は、イエスに出会い、自分が死に、キリストが生きるという経験をしているはずなのである。
 だから基本的に、日本人にとり仏教に目覚めていく経験を辿るかのように、この本は、アメリカ人にとり、イエスと改めて出会い直す経験をするという時の様子を描いたものであることになる。あるいはまた、クリスチャンホームに育ち、小さなころは親に連れられて教会に行きそこで育ちながらも、思春期に教会を離れ信仰からも遠ざかった子どもが、いつか改めて聖書に個人的に向き合い、またイエスと出会うということがあったとしたら、その様子を描いているものと捉えてみたらどうだろう。私は個人的にそのような過程を経ているわけではないが、私の子どもにとってはその経験がこれからあるかもしれない、いやあってほしいと思うだけに、本書のような、どこか冷静に聖書を扱っているものも、役立つものなのだという気がしてくる。
 ただ、どんな宗教でも軽蔑してはならないという点では賛同するものの、どの宗教でも同じような救いがある、というふうに聞こえるような述べ方、どこかスピリチュアルなにおいがしてきそうな叙述については、私は必ずしも肯けない場合がある。だからまた、本書をそのまま、若い人に、これを読むとよい、というふうに勧めることにもためらってしまうものである。主旨そのものがよくないとは思わないし、「イエスとの初めての再会」という、パラドクス漂う題名も、決して奇を衒ったものだとも思わないのではあるけれども。




Takapan
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