本

『ミス・ダイヤモンドとセーラー服』

ホンとの本

『ミス・ダイヤモンドとセーラー服』
古川照美・千葉浩美編
中央公論新社
\1765
2010.6.

 エリザベス・リーという名前が広く知られているとは思えないが、日本の学校のセーラー服発祥の地と言われると、比較的知られているかもしれない。とくに福岡では、誰もが知っている有名な事実である。福岡女学院。ここで、セーラー服の歴史が始まった。  この本は、それを導入した第九代校長、エリザベス・リーについての歴史的な資料となるであろう。非常に資料性の高い本で、彼女の伝記のようなものであるにしても、様々な根拠をたどり、記述することに吝かではない有様を呈している。
 恰好は、彼女の伝記である。どうして日本に来ることになったのか。そもそもどういう家庭に育ったのか。そして日本でこの学校をどうつくっていったのか。そのとき日本はどういう時代であったのか、という解説も含めて描いた後、戦争を迎えるにあたり日本を去ることになり、その後どう難民救済活動などに勤しんだか、そうしたことを描いている。
 百一歳で召されるまでのその歩みの中に、キリストの香りを感じたのは、私だけではないであろう。その信仰がこと細かく描かれるというわけではないが、十分にそれが伝わってくる。
 セーラー服の導入にしても、言葉が通じない生徒たちと、スポーツを通じて、とくに当時盛んになり始めたバスケットボールをするために、和装では無理なので活動的な服として考案したのだという説が採用されている。これはあまり聞いたことがなかった。当時の服装と女性の立場、それを支える文化的背景についても、十分解説が施される。その上で、教育の理念として、少年には大志を抱けとクラーク博士が言ったように、リーは、少女に活動的であるようにとの言葉を掲げている。
 まことに、輝くようなその人物像から、人々は彼女のことを、ミス・ダイヤモンドと呼んだ。それが、この本のタイトルとなっている。ちょっと粋なタイトルであると言えるだろう。
 信仰者、宣教師の人生をたどり神の導きを香らせる本であるとともに、ここには、歴史書には十分描かれない、女性の立場とその受け容れられ方がよく描かれている。良妻賢母であるといったイメージだけでなく、恋愛なるものが盛んになっていった過程や、あげく妊娠してから結婚をするという形が、ある時期に非常に増えたという有様も記される。和装と洋装の風俗史に終わるわけではない。女性の地位や社会的な立場などが描かれている点でも興味深い。
 福岡の方は、こうした人が地元の歴史に刻まれていることを知り、今もなおその信仰の炎が灯っていることを描くこの本に一度目を通して戴ければと思う。また、女性の社会的な立場についても、大いに知るところの多い本であることだろう。
 こうした宣教師の祈りと奉仕によって、私たちはたくさんのものを与えられてきた。私たちは今度、それをまた誰かに伝え、与えることはできないだろうか。そうした気持ちにさせてくれる本でもあった。




Takapan
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