本

『やさしいドイツ語の教科書』

ホンとの本

『やさしいドイツ語の教科書』
志田裕朗
国際語学社
\1575
2011.4.

 小さなサイズの本で、1500円は割高に思われるかもしれない。だが、これは実にユニークであり、刺激がある。
 通常、語学の本とくれば、レッスンがなされているものである。まずここから学習し、練習問題をしましょう、というような。そしていろいろ単語を入れ替えてその文型を身につけていく、という具合である。
 しかし、この本は練習帳ではない。まさに「教科書」である。そうしたおけいこ的なものが一切ない。これがすっきりしている。
 この形式が役立つのは、もしかすると、一度ドイツ語をそれなりに学んだ人であるかもしれない。初めて学ぶ学生がこの教科書を与えられても、実例の意味すら分からないものであろう。しかし、一通り学習した人にとっては、なるほどそうだった、とか、そういうわけだったのか、とか納得することが多々あるだろうと思われるのだ。
 サブタイトルに「ことばのしくみのと文化を学ぶ」とある。また表紙の下のほうに、「通読できる読みもの&ドイツ語のエッセンス」とある。まさにこれは、ドイツ文化というものを知るに相応しい一冊なのである。
 最初の50頁ほどが、この文化の説明に割かれている。その国、言語、ドイツ人たるものをほどよく解説していく。そして、ドイツ文学については頁も多く、ゆったりとした調子で流れるように記されていく。こうした背景のようなものを読むだけでも、この本の価値は下がらないと言えるほどのコンパクトで的を射た記述が続いている。実に読み応えがある部分である。
 こうしてようやくドイツ語そのものに入る。文字から発音など、体系的に簡潔に説明されていく。実例に応じて小出しにするというのでなく、ずばり結論から一覧されていく。これが、ちまちま学習するというのでなく、読んでいくという立場において実にテンポがいい。繰り返すが、一度学習した者が読むのに好適なのである。
 文法は英語との比較も多い。ドイツ語は英語にかなり近い部類である。その上で、英語と異なるところもある。動詞の後置やワク構造、むしろ日本語に近い配列などにも触れられて、理解を深めていく。要するに「なるほど」と思わせる部分が多いのである。そのためにも、読者はある程度ドイツ語を知っていたほうがスムーズであるというわけである。
 必要な活用表は目立つように掲載されている。何か急に調べたいと思うときには、この本がそのまま文法活用表を知らせてくれるものにもなる。体系的構造のもとに並べられているから、その表もどこにあるか検討がつけやすい。
 こうしてついに接続法に至る。その説明は、確かに細かな完全な文法書に比較すれば大雑把すぎると言われる性質のものであるかもしれないが、簡潔で理解しやすく、納得できるという点では、実に優れたまとめとなっている。もちろん、一定の実例は交えていくので、すべての説明が抽象的になされているというわけではない。
 最後は、会話。日常でよく使われる表現がコンパクトに集められており、序数や月名など、文法だけの本からすれば見落とされがちなこともまとめられている。もしドイツに降り立ったならば目にするであろう、よくある看板も紹介されており、実用性の点でも優れている。
 こうして見てくると、私の目から見て画期的な教科書であり、ドイツを理解するために大変有用な本となっていると言える。ドイツの地図も附録のように載っていて、それは観光案内には使えるものではないが、ドイツを理解しようとする場合には欠くことのできないものだと言えるわけで、ドイツ語を中心としたドイツ紹介という意味で、まことに良い出来の一冊ではないかと思うのである。
 NHKラジオのドイツ語講座も、そうした文化をほどよく紹介してくれる。テレビのほうは、文化や風俗に偏りがちでドイツ語そのものについてはかなり甘いようだが、ラジオは文法をきっちり伝える。今はよい時代だ。私がドイツ語を学んだころには、ひたすら真面目なエクササイズばかりだったような気がする。ドイツ語を学ぶ人、学んだ人にとり、手元に置いていて損のない本である。決して高くは感じない。文法で注目するべきところには、赤字や赤ラインも入れてある。簡素ではあるだろうが、至れり尽くせりという印象をもった。
 英語を専門にする人も、せめてドイツ語にくらいは興味をもち、どこかで学んでほしいものだ。でないと、英語の語法や英語の構造について、土台の理解を欠くことになるように思う。日本史をまるで知らずに日本語を学んで喋る外国人がいたとして、はたしてその人は日本をよく理解してくれていると言えるだろうか。言葉と文化は、一体となっているはずではないだろうか。そんなことまで、ふと考えてしまった。




Takapan
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