本

『ルパン最後の恋』

ホンとの本

『ルパン最後の恋』
ルブラン作
那須正幹文
ポプラ社
\1260
2012.12.

 ルパンと聞くと、ルパン三世のことかと思う人も増えてきているかもしれないが、もちろんこれはモーリス・ルブラン作の怪盗紳士シリーズのキャラクター。イギリスのシャーロック・ホームズが本格的な推理トリックを以て、そのどこか危ない姿を通して、名探偵の代名詞にもなっているのに対して、アルセーヌ・ルパンは、いわば泥棒。しかし、それは後のブラック・ジャックを思わせるような、腕の確かさと義賊的な性格により、たとえばエスプリの利いた魅力を振りまいている。ルパンには、ホームズと対決する話もある(原文ではホームズという名ではないが日本では、どうせアナグラムで改造した名前であるからということで、実質的にモデルにしているホームズということで通っている)のだが、この『ルパン最後の恋』の巻末にあるルブラン自身の文章によると、ホームズのシリーズは読んだことがない、とまで言っている。どうも衒って言っているような気がするが、時代を同じくして生まれたヒーローたちは、まだ始まって間もない推理小説ないしミステリー小説という世界に輝き、今なお多くのファンの心を掴んで離さない。
 創元推理文庫のリュパンシリーズが懐かしい。
 ただ、私自身は、実は、ポプラ社の本をたくさん読んでいる。子どものころ、次々と出版されていた。子どもが読めるように改編されたものではあったが、話の要点と面白さは十分に伝わった。このような方法で、子どもに読書を促すというのは、実によいものだと思う。原典と同一でないからダメだ、などと言わないでよいと思う。子どもは子どもなりにその魅力に触れ、いつか大人になったとき、じゃあ原典に忠実な訳でまた読んでみたい、と考えることだろう。なによりも、ルパンなりホームズなりを、好きになるというのは、よいことではないか。
 さて、肝腎のこの本について触れるのが遅くなったが、これは近年駆けめぐったニュースに基づく本である。ルブランが亡くなって70年経って公にされた原稿があったということで、2012年にフランスで、続いて日本で出版されたのである。しかも児童用にすぐさまこのように構成するなど、心憎い配慮である。
 児童用に翻案されたものは、かつては南洋一郎訳で有名であったが、今回は時代も変わり、那須正幹氏が見事に役割を果たしてくれた。「ズッコケ三人組」シリーズの作者である。話の展開が、どうしても急であるし、細かな推理や説明については、思い切った省略や簡略化があるではあるだろうものの、小学生の理解に見合う作品として提供できているのはさすがである。
 いや、なによりも、ルパンの恋愛という、実に魅力的な話題である。作者がこれをどのように書いていたか、その死との戦いの中で仕上げ、十分な推敲もできなかったが故に、他の作品との関係で幾多の矛盾があるのではあるけれども、ファンならずとも、これはこれで大変楽しめる作品になっている。恋愛ものとして読んでも、なんだかドキドキしてしまうのである。尤も、小学生がこれを読んだとき、どういう読み方をするのかという点については、私はさしあたり分からない。でも、これでなんだか安心して、ルパンの物語に幕引きができるような気もするような気もする。
 子ども用の本である。大人には物足りないだろう。しかし、字も大きいし、それなりの魅力は十分伝わるし、味わえる。電車の中でだと、二日くらいで読めそうである。ポプラ社のシリーズは、かつての巻数を今は減らしているというが、それでも、多くの作品を手早く楽しめるというのは魅力である。そういえば、私の家にあったのも、大人が読んで楽しんでいた。何も遠慮することはない。お忙しい大人の方々、このダイジェストでたんまり楽しめるなら、手を伸ばそうではないか。




Takapan
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