本

『ニッポンの父よ! 家に帰ろう』

ホンとの本

『ニッポンの父よ! 家に帰ろう』
井上温章編
いのちのことば社
\1050
2010.2.

 デール・アクスリー宣教師の子育て講演集である。
 第二次大戦後、長崎に海兵隊員として駐在中に、日本人への伝道をすべく献身を思い、大学卒業後1952年に来日。ではどこに、と思いつつ、誰も宣教師が足を踏み入れていないような田舎を求め、熊本県人吉の山中に暮らすことになる。教会を建て、幼稚園、そしてキャンプ場を開拓する。2010年においてはすでにアメリカに戻っているが、その子どもたちが各方面で活躍している。その宣教師が日本で講演したテープを起こして一冊の本としたのがこれである。というのは、自身の子どもたちを自ら教育せざるをえなかった環境などから、子どもを育てることについての方法や信念が確立していたことと、それが日本の現状の中に何か訴えるものがあるということで、いろいろなニーズから講演を依頼されることがあったために、子育てについて各地で語ることが多かったそうである。
 適切な見出しと時折載せられる当時の子どもたちの写真など、読みやすさがある。キリスト教関係という、比較的限られた販売領域の中にある出版としては、価格も内容もなかなかのものであると言えよう。むしろ、これが信仰を表立ったものとして突きつけるものではない故に、一般書店への販売ルートに乗せてほしいところだ。
 講演そのものは、1983年から1993年までのものが鏤められている。ほぼ十年間にわたるわけだが、その内容にブレがあるとは言えない。すでにその5人の子どもたちは成人し、子や孫までもうける年代となっている。大会社の指導者となっている人もおり、それぞれが信頼のおける大人へと成長している。しかし、その子ども時代、様々な問題はもちろんあった。そのとき、子育ては失敗だったか、と案ずる時も多々あったことだろう。しかし、神に祈り委ねる中で、自分を見つめ、子どもたちを愛する生活は、すべてを益に変えていく。その証しとしても、この講演は発されていると言えるだろう。
 仕事に熱中しているということをむしろ言い訳にしてしまい、家庭、とくに子どもたちの教育に関して父親たるものが逃避するようであってはならない、と言う。父なる神が世界を支配していく秩序があるように、家庭において父親が確かな存在を示すべきであると考えている。とくに日本においては、家庭における父親の存在を根拠づける思想に欠けている面があるかもしれない。一般への講演でありながら、当然それらの根拠として聖書があるものだから、聖書の力強い言葉が時折引用され、それに従う精神の中で、家庭が祝福されていく。たとえ聖書を信じるわけではなくても、聞く人には伝わるものがあることだろう。また、だからこそ、講演を各地に依頼されたのであろう。
 惜しむらくは、この講演がすでに二十年も昔のものであること。当時の子どもが親となるだけのタイムラグがある。そのころの日本人に言えたことが、今2010年の日本人にも同じように言えるのかどうか、分からない。もちろん、日本の風土に長らく潜むもの、その文化に隠れた精神など、変わらないものも必ずある。しかしまた、たとえば新たな親は、その経済状況も影響しているのかもしれないが、子育てについての意識や実情が、かつてとはずいぶん変わってきている。私が昼間の自由時間を使って子育てに奮闘していたころとは違い、今では公園で小さな子と遊ぶ父親が増えており、食料品の買い出しにきている父親の姿もちらほら見るようになった。私はかつては殆どそういう一人として地域に生きていた。
 この新たな状況を分析して同様に講演していくだけの時間と情熱は、もはやこの宣教師負債夫妻自身は持ち合わせていないことだろう。また、それでいい。このスピリッツを受け継いで、今のこの状況の中で、新たな子育ての指針を、しかも聖書を土台として、誰かがどれほどまで訴えて信頼されていくことができるか、そこが問われている。この本の内容そのものが今も問題なく利用されるかどうかは疑問だが、この本の精神がどう生み出され活かされていくか、そこに今出版された価値があるような気がする。




Takapan
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