本

『アルプスの少女ハイジの世界』

ホンとの本

『アルプスの少女ハイジの世界』
ちばかおり
求龍堂
\1890
2008.11

 1974年に放送開始というから、もうずいぶん昔のことである。
 当時は、「カルピスまんが劇場」であった。ヨハンナ・スピリ原作の『ハイジ』は、日本のアニメとして、子どもたちに大人気となるのであった。そして、今なおそのキャラクターは生きており、キャラクターグッズもよく売れている。当時のアニメも、懐かしがる人が多く、そして当時を知ることもない若い世代にも、受け容れられている。
 この本は、そのアニメーションのハイジについて思いを巡らすために役立つ本である。ファンならば、ぜひ手元に置いておきたい一冊ではないだろうか。
 後半では、演出担当の高畑勲をはじめとし、制作に関わった様々な人の声が掲載されていて、貴重である。しかしまた、たんにそうしたデータブックとしてマニアックな編集がなされているわけでもない。写真、とくにアルプス現地の写真とそこからアニメが出来上がっていくつながりなども含めて、美しい自然の風景がたくさん登場していることは、実にほっとする。ハイジが、実際どういう環境でどういう背景を伴ってそこにいたか、ということを伝えるのに、こんなに適切なこともない。
 ハイジがアルプス(アルム)に来たのは、五歳だと記してある。改めて驚く。幼稚園に通う三男と同じ年齢なのである。たんに一つの物語の登場人物としての子どもというよりも、何か非常にリアルな、生きたキャラクターとして、ハイジが近しく感じられてならなかった。
 子どもに夢を与える番組であったし、食事が終わった後の時間は、そんな子どものためのアニメが盛りだくさんだった時代である。それは、子どもも大人も一緒に見ることができるような番組が多々あった。まだ茶の間というものが存在したと言える時代だったのではないだろうか。あまりに個々になってしまった今、ハイジのような魅力的なキャラクターが育つ余地があるのだろうか、とふと淋しくなる。
 カルピスも後にハウスの提供となっていったが、子どもとの関わりをもつスポンサーにより、長らくこのシリーズも続いた。今のおとなが、こんなふうに子どもに何かを伝え遺していくことができるものがあるとすれば、いったい何であろうか。




Takapan
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