本

『高校数学の美しい物語』

ホンとの本

『高校数学の美しい物語』
マスオ
SBクリエイティブ
\1800+
2016.1.

 ウェブ上で話題の数学サイトが本になった。
 とはいえ、私は本の方を先に認識したことになる。ウェブもすばらしいが、私には専門の数学についてはよく分からない。かつては数学少年であったにせよ、高等数学を学んだわけではないので、蚊帳の外である。
 しかし、数学の美しさというものについては、感じる心をもっている。だから、この本のタイトルは大変気に入っている。
 数学の美しさとは何か。かつて数学者であり教育者であった矢野健太郎先生は、エレガントな解答という言葉で、数学の普及に貢献した。解答について言えば、そういうことなのだろうと思う。だが、何も解答そのもの、解答へ至る過程ばかりが美しいのではあるまい。本著について、著者は証明の美しさの理解を目指してほしいと言っているだけで、数学の美しさに感動してほしい、という願いだけは強く出しているが、ではその美しさとは何であるのか、についての説明はしていない。
 また、著者の中においても、いわば「あそび」の部分がない。淡々と、数学の解説が続く。普通ならば、息抜きコーナーだとか、おもしろ数学入門だとか、何かありそうであるが、この本には一切ない。いや、ちょっとしたコメントがないわけではないのだが、いわゆる一言補足という程度で、決して遊んでいるとは言えない。つまり、あまりにも真面目なのである。
 だったら、読み厭きてしまうだろう、物好きの読む本だな、と思われるかもしれない。ある意味でそうだろうと思う。しかし、よけいな脂肪を削ぎ落とした肉体に無駄がなく美しいと称することがあるように、この本は、おもしろコーナーがないにも拘わらず、いや、だからこそ、美しいと思わず漏らしてしまうような魅力がある。
 高校数学というから、高校生で、数学に魅力を感じる生徒のために書かれた本であるかのようである。だが、本書は、中学数学で学べるもの、あるいは中学数学の優秀な生徒は首を突っ込むことができるようなものもたくさんある。目次にその基準が明示してあるので親切である。ただ、実際中学生が読めるかというと、やはり高校数学の手法で記されているために、お勧めできないことになろう。ただ、高校数学は、解いてなんぼの世界である。この本は、定理などの成り立ちを並べるだけである。その証明方法が、厭きるほど淡々と並んでいる。練習問題を解こうという試みはない。だから、定理の証明程度に見ていくとよいだろうが、たしかに問題を解くために役立つものとは言い難いかもしれない。その意味でも、これは美しい物語なのだと言いたいのかもしれない。
 確かにこれは物語である。ストーリー性はない。感情も混じらない。ただ理性の奏でる音を聴き、それに酔うかのような、不思議な魅力を以て読者を包み込むだろう。
 サイトのほうには、より高度な定理などが何百と挙げられているという。本書は、その中からの厳選された抜粋であり、学習段階としても、一定の枠内に抑えてあるのだ。それでも、決して簡単ではないけれど、中学の数学の授業で使えるものもいくつもあるので、味わってみたらよいかと思う。
 なお、本書には、発行後見つかった訂正箇所がある。それについては、著者のウェブサイトの誤植情報をご覧になるとよいかと思う。




Takapan
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