本

『日本の友へ』

ホンとの本

『日本の友へ』
ルードルフ・ボーレン
加藤常昭訳
教文館
\2500+
2002.10.

 親日家と言ってよいのであろう。この本の出版時点で82歳であったが精力的に日本で多くの講演や説教をこなし、これだけの内容のメッセージを遺した。訳者の加藤常昭氏が通訳として同行し、親しく交わったのは、その長い付き合いがあったからでもあるが、互いの信頼と友情が強い絆を築いていたことによるのであろう。
 日本の人々への熱いメッセージとして、この本はまとめられている。これだけで、日本人には紐解く価値があると言えるが、そうでなくても、バルト以降のドイツで福音の一筋通った理解とリードを司る存在として、偉大な業績を果たしていた人物である、どこをどう読んでも、人の魂に触れないわけがないと言ってもよいはずだ。
 神を、ではなく、神が、働かれる。それに対して、人が神を呼ぶにしても、神が語ることを知ることによらなければ、無意味となる。ボーレンは、説教に神の霊が働くことを信じて疑わない。霊の導きを日本語訳の文章からも伝えるものとして、本書は日本における説教をまず記す。日本人を配慮したというふうには私には見えない。福音を語るにあって、国境はないのだろう。また、それだからこその福音なのであろう。
 サブタイトルとして「待ちつつ速めつつ」と付いている。互いに矛盾するそのフレーズが、この本全体を流れる良き知らせの核心に触れていることは間違いがないだろう。説教と講演とはやはり区別されるが、その講演のほうで、「待ちつつ速めつつ」という題の文章がある。これは幾度か繰り返し講演され、本人もこの日本での旅のメインにと考えていたのであろうと思われる。これは自分の遺言のつもりで書いていると後の手紙で伝えられたという。基本的に、語る対象は、日本の説教者たちである。語るものが永遠さを備え、重みをもつと共に軽やかであると謎めいた言い方をして、十字架をどう伝えるかについて、あくまでも上から下への方向が強調されるべきであるとする。終末という永遠を見据えつつ、それを待つからこそ、それを速くしてほしいと願うのでなければならないという。そこに信仰がある。それは人を萎えさせることなく、人をいきいきと動かす。強くなれるし、高みに引き上げられる。希望のメッセージがこのように語られていたのである。
 さらに説教論や、説教についての知恵の命題が並べられて解説を加えた後は、具体的な事例とともに、死やとりなしなどが説かれる。
 書簡や日記などの私生活的なものも加えられ、ボーレン氏の人柄を伝えるものを添えて戴き、ずっと寄り添ってきた訳者の敬意と愛情を強く感じさせる構成になっていて、本という作品として、完成度が高いように思え。
 だが何よりも、説教というものについてこれだけの福音的な教育をする本ということで、多少入手しにくくなったとはいえ、私たちの魂を強く刺激することになるものと言えるだろう。説教のエッセンスも伝えられるが、こころも伝えられてくる。それから十数年、いまの私たちをボーレン氏が見たら、どう発言するだろうか。どう祈ってくださるだろうか。




Takapan
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